新宿梁山泊『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
本番前に提示できるもうひとつの作品
金 去年ニューヨークのラ・ママ実験劇場に行ってきたら、演劇のポスターがすごく丁寧にアーカイブされていて。そこに宇野さんのチラシやポスターがあったんですよ。 水嶋 『毛皮のマリー』のポスターでした。 金 劣化しないひとつの文化として、歴史に残っていくわけですよね。宣伝媒体でありながら、これもひとつの作品じゃないかなと思います。僕は演劇において、チラシのイラストレーターはもうひとりの作家だと思いますね。 中井 特に、日本でもかつてはアートのど真ん中の方が演劇に関わっていましたよね。新宿梁山泊と宇野さんとは、そのつながりが今もなお残っているとても貴重な関係だと思います。最後に、紙のチラシがどんどん減っていますが、新宿梁山泊は今後も紙のチラシを作り続けますか? 金 もちろんです、当たり前でしょう! これが最初の僕らの意気込みですから。宣伝でもあるけれど、僕らが本番前に提示できるもうひとつの作品。 水嶋 特に宇野さんの絵で、皆さんが好まれるから絶対に作ります。ただ、配るところは少なくなりましたね。街撒き(街の店にチラシを置きに行く)はコロナ禍以降、もう行かなくなりましたし、劇場も枚数を減らしていて……。 金 でも僕は、日本の演劇のチラシをラ・ママのアーカイブに残したいんです。ニューヨークでは寺山さんも無名で、三島由紀夫で終わっている。でもきっとこの世界は刺さると思うんです。寺山さんも唐さんも、後世にきちんと残していきたいなと思います。 取材・文:釣木文恵 <公演情報> 新宿梁山泊 第77回公演『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』 日程:2024年6月15日(土)~6月25日(火)※毎夜19:00開演 会場:新宿花園神社境内特設紫テント 作:唐十郎 演出:金守珍 出演: 中村勘九郎 / 豊川悦司 / 寺島しのぶ / 六平直政 / 風間杜夫 金守珍 / 水嶋カンナ / 広島光 / 松田洋治 / 藤田佳昭 / のぐち和美 二條正士 / 柴野航輝 / 宮澤寿 / 荒澤守 / 染谷知里 / 本間美彩 / 芳田遥 / 三輪桂古 <プロフィール> 金守珍(きむ・すじん) 1954年、東京都出身。新宿梁山泊代表。蜷川スタジオを経て、唐十郎主宰「状況劇場」で役者として活躍後、新宿梁山泊を創立。 旗揚げより演出を手掛ける。1997年にはオーストラリアの国立演劇学校から「特別講師」として招かれ、1999年にはニューヨークで『少女都市からの呼び声』を公演。2022年、新宿梁山泊公演『下谷万年町物語』とProject Nyx公演『青ひげ公の城』の演出で第五十七回 紀伊國屋演劇賞を受賞。 水嶋カンナ(みずしま・かんな) 東京都出身。青年座研究所を経て、1994年『青き美しきアジア』より新宿梁山泊に参加。以来数々の唐十郎作品に出演する。2006年に、宇野亞喜良の総合美術、金守珍の演出を基盤とし、不朽の名作や知られざる傑作を現代のパフォーマンスとして蘇らせる実験演劇ユニットProject Nyxを立ち上げる。プロデューサー兼女優として活躍中。 中井美穂(なかい・みほ) 1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から2022年まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めたほか、「鶴瓶のスジナシ」(TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より2023年度まで読売演劇大賞選考委員を務めた。