新宿梁山泊『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
奇跡のキャスティング実現までの道のり
中井 それにしても、本当に奇跡のキャスティングですね。中村勘九郎さん、豊川悦司さん、寺島しのぶさん、六平直政さん、風間杜夫さん。よくぞこの5人がこの時期に揃いましたね。 金 (十八世)中村勘三郎さんがずっと唐さんをやりたいと言っていて。その思いを受けて中村勘九郎くんがずっとうちを観に来てくれて、「いずれ一緒にやりたいね」と話していたんですよ。ある日の観劇後、飲み会に残ってくれて、そこからこの公演の話が動いていったんですよね。それとは別に、豊川さんとも「やりたいね」と話していたんですが、なかなか彼の重い腰が上がらなかった。それが今回実現しました。 中井 何かきっかけが? 金 僕は、豊川くんと『蛇姫様』をやりたいと思っていたんですよ。でも、「しばらく舞台に立っていないからこの作品には体力が追いつかないし、キャラクターも合わない」と。そんな豊川くんが「金さん、これだったら僕やれそうです」と言ってくれたのがこの『おちょこの傘もつメリーポピンズ』だった。そこでみんなで集まってやんややんややって、実現にこぎつけました。 水嶋 こんなメンバー、実現しそうにないでしょう? でも、私は実現するような気がしていました。みんなが度々集まって「さすがにできないでしょう」「いややるよ」とかいろいろ話し合う会があって、私もたまに参加していたんです。皆さんがすごくこの唐十郎作品を求めている感じがあったので、これは決まる予感がしていました。 金 皆さん、テントに出たいという思いがあって。テント公演には爆発的なエネルギーがありますから、そこにチャレンジしたいと。あとは作品選びですよね。豊川くんはやる気で、相手のセリフも全部入っていますから。 中井 そうなったらもう、やるしかない。 金 豊川くん、30数年ぶりの舞台というけど、かっこいいですよ。風間杜夫とのふたりのシーンを花道で、客の中でやりたいといって稽古している。なかなかいいですよ。唐さんもこの公演をすごく楽しみにしていて。いちばん喜んでくれると思っていたら、ご覧にならないで逝ってしまわれましたが……。宇野さんがチラシ用に描かれたイラストだけは唐さん、ご覧になったんですよ。それがせめてもの慰めですね。芝居の稽古が始まる前にチラシという作品があってよかったなと思います。