新宿梁山泊『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
投げかけられたものを自由に受け取ればいい
中井 今回はテント公演に初めて行く方も多いと思いますが、何か意識されていることはありますか? 唐さん作品自体に初めて触れる方も多いと思います。たとえば唐さんの作品は、台詞が美しいですね。最近あまり聞くことのない美しさ。 金 劇詩人ですね。詩って、行間がある分解釈がいろいろできる。唐さんがよく「誤読のすすめ」とおっしゃっていて。ひとつの現象をひとつで受け取るという縛られた伝え方ではなく、100人いたら100通りのストーリーがあっていいんじゃないかという考え方ですね。投げかけたものを皆さんがどう捉えるかは自由。 中井 初めて観る方も、何度も観ている方も変わらず、自由に受け取ればいい。 金 はい。唐さんも宇野さんも、イメージの飛躍、豊かさがあるじゃないですか。それが非日常の、普段使わない脳みそを刺激する。70年代の寺山(修司)さん、宇野さんからアングラが始まり、唐さんはテント芝居で演劇として新しい方向性を見せた。ただ、唐さんご本人は「新しくもなんともない、ずっとあったことをやっているんだよ」とおっしゃるんですよね。元をただせば、屋台崩し、外連味、花道、そしてイメージの飛躍。それは歌舞伎の中にいっぱいあるじゃないですか。唐さんの作品をテントで上演するというのは、自由闊達なイマジネーションを皆さんで楽しむ、祭りみたいなものですよね。 中井 その坩堝の中に自分も入りたいと思うのでしょうね。 金 テント芝居は幕一枚隔てて外で、守られていない。どこまでも自然の影響を受けながらの公演ですから。特に花園神社はしょっちゅう救急車のサイレンが聞こえるし。それが楽しい。 中井 新宿梁山泊を観に行くと、若いお客さんもすごく多いですよね。 水嶋 最近学生さんも多くて、嬉しいです。 金 順繰りに注目されていくんでしょうね。刺激がほしいときにはこういうものを観て、日常のドラマを観たいと思ったら平田オリザさんのような静かな演劇を観て……と、相互作用で陰と陽が周るように。テントばかりでも嫌になっちゃいますから(笑)。 水嶋 唐さんのお葬式に参列しながら、次の世代に唐さんを受け継いで行きたいと改めて思いました。だから若い人たちにできるだけ観てもらいたい。伝えていきたいなとすごく思います。 中井 もう新作が観られないと思うと、精神が残っても肉体が残らないことの悲しみを感じます。でも、だからこそ残った作品がどんどん上演されるといいですよね。ひとつの作品にいろんな解釈があり、上演する団体によって変容していくところが面白い。 金 そうですね。だから自由に観てもらいたい。ただ、そのまま日常に埋没するのではなく、何かしらがその人の人生に残ってほしいですね。 中井 演劇ってエネルギーだし、命だなと思います。今生きているから見られる、作った人が亡くなっても、生きている人が身体を貸せばその作品を蘇らせることができる。その、生きていることを確かめに行く感覚。それが私がアングラを観に行くいちばんの理由だなと思います。