菅田将暉の何が凄いのか?黒沢清監督が驚いた二つのシーン
初タッグとなった『Cloud クラウド』では、菅田から役柄をつかむための参考資料を求められ、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』(1960年・ルネ・クレマン監督)のタイトルを伝えたという黒沢監督。アラン・ドロンが演じた主人公の「真面目にコツコツと悪事を働いていく」人物像を伝えるのが目的だったが、とりたてて黒沢監督が意図を説明することはなく、菅田の解釈に委ねたという。
「菅田さんが“役の参考になるような映画があったら観たい”とおっしゃったのでこの映画を観てもらって、菅田さんと1時間ぐらいディスカッションの場を設けたんですけど、そのほとんどが“『太陽がいっぱい』って面白いですね”“面白いでしょ?”“アラン・ドロン、なんであんなにかっこいいんですかね”といった他愛もない話しかしていません(笑)。菅田さんはアラン・ドロンを観て、おそらくほぼ直感的に吉井のキャラクターはこういうことなのかなとつかまれたんだと思います」
ところで、撮影中に何度も「なんでそんなにうまいんですか」と聞いてしまうほど菅田の演技に魅了されたという黒沢監督だが、菅田の何がすごいのか? 「例えば、“いいよ”の一言で、主人公のイエスともノーともつかない曖昧さみたいなものを的確に表現してくれるところ。持って生まれたものもあるんでしょうけど、“いいよ”って言いながら、半分は“弱ったな”と思っている。そんな、どっちつかずの“いいよ”です。ただ漠然と曖昧にやると、なんとも意味不明になってしまうんですけど、菅田さんが演じると“この人どっちつかずなんだな、半分は嫌なんだな”という心情が確実に伝わってくる。“ちゃんと”曖昧さを表現しているっていうところが驚異的です。普通、俳優ってわかりやすく喜怒哀楽、感情を伝えることを訓練しますけど、はっきりしない感情って相当な技術がないと表現できないもので。それをあの若さでちゃんとつかんでいらっしゃって、びっくりしました」