韓国世論ばかり注目。ここでも内戦“忘れ去られた”済州島イエメン人の思い
500人を超えるイエメン人が韓国の済州島へ
現在人口約66万人の済州島では500人を超えるイエメン人が暮らすという。なぜそうなったのか。報道などでは、大きく分けて4つの要因が挙げられている。 1. イスラム教の国でもあり、ビザが不要だった東南アジアのマレーシアに、多くのイエメン人が内戦を逃れて暮らしていた。 2. 昨年12月にマレーシアと済州島を結ぶ 格安航空便(LCC)が就航した。 3. 済州島は観光活性化のため、ビザが無くても多くの国の外国人が(一定期間)30日まで滞在できる制度をとっている。 4. 韓国はアジアで唯一難民法を制定していて、難民の受け入れ体制が比較的整っている。 ヨルダンで知り合ったイエメン人の友人にも韓国で起きている問題について尋ねた。 彼の話では、内戦の前から多くのイエメン人がマレーシアで出稼ぎとして暮らしていた。しかし大体はレストランでの仕事で、長時間労働の上、給料は非常に安く、月300ドル程度にしかならなかった。ところが韓国では月1800ドルの仕事を得ることができるという。 つまり、マレーシアと韓国済州島を結ぶLCCが就航するようになったことをきっかけに、済州島であれば外国人でもビザ無しで滞在できる── 。そうした情報がマレーシアにいるイエメン人の間で広がり、新たな仕事のチャンスと新天地を求めて、多くの人々がやって来るという事態になった模様だ。
韓国世論を分断するイエメン難民問題
だが、済州島へのイエメン人大量流入は、韓国において複雑な問題として受け止められている。首都ソウルでは難民受け入れに反対するデモが起こり、アラブやイスラムに対する差別や嫌悪のイメージが広がっている。 先に述べた友人によると、現在韓国に逃れて来ている人々の多くがイエメンの地方出身者で、十分な教育を受けていない場合も多いらしい。飲酒で問題を起こすなど、韓国人に対し、ネガティブな印象を与える行動を起こすケースも一部あると言う。 一方、韓国側にも難民を支援しようと個人で活動する人々や団体も存在する。 済州島で暮らすイエメン人の取材中、韓国の学生とビデオジャーナリストに出会った。2人は現在の韓国世論に対して疑問を感じ、イエメン人について知るためこの島へやって来た。彼らは「世論に広がる差別意識の根底には中東やイスラムに対する無知があるからだ」と考え、イエメン人のドキュメンタリー映画制作を進めていた。 一部イエメン人たちの問題行動と韓国国民にある中東やイスラムに対する無理解── 。それらが難民受け入れへの反対世論をさらに大きくしてしまっているところがある。 実際、イエメン人を支援している団体に取材と撮影を申し込んだが、断られた。現在起きていることは済州島において非常に繊細な問題で、それを取材に来るジャーナリストを快く思っていない人も多い、というのが理由だった。 韓国で起きていることは、日本にとってもよそ事ではない。済州島の外国人ビザ無し制度は、結果として多くのイエメン人を呼び寄せることになり、韓国世論を分断する事態を引き起こした。 それに対して日本は、難民受け入れの門戸が大きく開いているとは言えない。難民受け入れ数は非常に少なく、しばしば国際社会の批判を受けている。しかし、安易な難民の受け入れを進めても韓国と同じ状況に陥るだろう。日本でも、中東やイスラムに対する理解はまだ不十分で、「イスラム教=怖い」という安易なイメージを持たれがちだ。政策だけでなく、異文化理解といったソフト面においても準備が十分整っているとは言えない。 韓国の現状から学び、難民や移民を十分受け入れられるよう、日本も少しずつ社会を変える必要があるのではないだろうか。