自分がイヤだったことをしてしまう…。教育や指導のストレスを軽減する3つのポイント
◇陸上自衛隊幹部学校で使っていた質問術 〇 できている部分にこそしっかりと目を向けること人を指導する際には、どうしても相手のできていない部分に目がいきがちになります。人の努力をビンの中の液体に例えるなら、ビン上部の空の部分を指さして「まだまだ空っぽだ(努力が足りない)」と指摘してしまうわけです。 これでは、すでにビンの中に入っている液体のほう、つまりその人がそれまで努力して溜めてきた液体の部分をまったく認めていないことになります。 本人としては、努力して溜めた液体の部分をさらに磨いて努力して増やすことで、実力を伸ばそうとしているのに、液体の入っていない空の部分を指摘されると、やる気が失せてしまうかもしれません。 例えば、子どもに部屋の片づけをさせたときに、洋服ダンスの中はきれいになったけれども、おもちゃ箱のおもちゃが散乱していたとします。 洋服ダンスがきれいなら、まずはそこを認めて褒めてあげましょう。そのうえで、洋服ダンスと同じようにおもちゃも片付けられるように促し、見守ってあげることが重要だと思います。 「できていないところ」や「足りない部分」を指摘する指導よりも、「できたところ」に意識を向けたほうが、お互いにとってストレスになりにくく、心のコントロール力を発揮する余裕が生まれやすくなります。 〇 「命令」ではなく「質問」をすること例えば、「勉強しなさい」と命令するのではなく、「将来の夢(目標・やりたいこと)は何?」「それを達成するためにはどういう勉強をどれくらいすればいいと思う?」「それを踏まえて、今の自分の状況をどう思う?」と質問し、話し合いながら相手の考え(意志)を聞き出します。 ただし、圧力をかけるような聞き方(すでに“答え”があって、それを当てさせるような聞き方)にならないように注意してください。あくまでも相手の意志を明確にし、その意志を成長させる質問を心がけましょう(植物の成長を意識してください)。 質問者は自分の意見を言わないで、相手が発言するのを我慢強く待つことがとても重要です。相手に自分の意志を作り上げるのに十分な時間を与えることで、責任感とそれに付随する自主的積極性を引き出すようにします。 心の中で植物の成長をイメージしながら、人間の心の成長を手助けしましょう。 植物に“早く成長しろ”とどれだけ命じても、成長のスピードは上がらないでしょう。植物は人間が余計な力を加えなくとも、もともと成長したがっているのです。子どもも同じで、やらされたから成長するのではなく、もともと成長したいものです。 つまり、「やらされている」感覚ではなく、本人が自分なりに“納得”して、自らの意志でその課題に取り組むことが大切だということです。「命令」だとどうしても前者になりがちなため、「質問」によって後者に導くよう心がけてください。 じつは、この質問術は私が過去に陸上自衛隊幹部学校の学校長を務めていたときに実践していたものです。 学生に問いかける際は、“答え”を求めるのではなく、彼らの意志を尋ね、その意志を伸ばし、意志を堅固に保持するように誘導することが重要であると気づき、そのあともさまざまな場面で実践し続けてきました。 ちなみに、私がよく使っていた質問の“型”は次のようなものです。 ・「君、この状況をどう思う?」 ・「君ならどうする?」 ・「なぜ君はそうするのか?」 ・「君の目的は何か?」 ・「君が、その目的を達成するためにはどうすればいいか?」 民間の教育機関の先生方に、この質問術の話をしたところ、賛同していただける方がたくさんいてうれしい気持ちになりました。 あとでわかったことですが、明治維新前の江戸時代の各藩校では、この質問術と似たような一対一の問答を通じて、藩の指導者層の武士を育てていたそうです。 この質問術は他の人への教育のみならず、自分自身の自主積極性を引き出したり、目的・目標と現在の自分の行動が合致しているのかを確認する作業にも使えたりするので、ご自身に対してもぜひ試してみてください。
小川 清史