5年に一度の年金制度改正 “主婦(主夫)年金”見直し提言…厚生年金“拡大”論も
岸田政権は、この問題への対応をどのように推し進めていくのか。田中秀明氏(明治大学・公共政策大学院専任教授)は以下のように分析した。 厚生年金の適用対象を広げることは一見すると望ましいと思うが、実は大きな問題がある。国民年金の加入者と比べ、安い保険料でより大きな給付を得られることになり、非常に不公平である。 国民年金保険料は現在、毎月1人1万6980円。これに対し、厚生年金に加入する月額賃金の下限は8万8000円になっている。これに保険料率18.3%を乗じて、保険料を計算するが、それは労使合わせて1万6104円(個人負担は半額の8052円)。適用対象の拡大とは、この下限の月額賃金を7万円や6万円に下げるものである。そうすると、現在でも労使合計の負担は国民年金より安いが、更に安くなる。国民年金保険料より安いにもかかわらず、基礎年金部分に加えて報酬比例部分も受給できる。国民年金の場合、基礎年金だけである。 もし、全ての国民が厚生年金に加入している場合、適用拡大は正しい政策だが、実際にはそうなっていないので、これは著しい問題があることを認識しなければならない。 年金の制度改正については、下図のようなスケジュールで議論が進められていく予定だ。 今後注目のポイントについて、木内登英氏(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト)は、次のように指摘する。 今回の公的年金制度改正のための財政検証というのは、少し特殊だ。これまでは年金財政の持続性を高めることや、給付額が下がることを防ぐことを目的としていたが、今回は人手不足対策という新しい要素が入ってきたことで、より難易度が高くなっている。在職老齢年金の問題や第3号被保険者については、人手不足をより深刻にしてしまう。さらに自営業者の方には恩恵がいかない、単身者が余計に保険料を払っている、という不公平感が非常に大きい制度になっている。さらに女性の社会進出を妨げているという側面もあるので、難しい問題ではあるけれども、抜本的に見直していかなくてはいけないだろう
【出演者】 田中秀明(明治大学・公共政策大学院専任教授。85年に大蔵省入省。内閣府参事官を経て、現職。老後の最低保障を視野に、年金制度改革を提唱) 加谷珪一(経済評論家。日経BP記者、野村系投資ファンドを経て独立。中央省庁へのコンサル、金融、経済、二次など多方面で執筆活動) 木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト。2012年、日銀審議委員に。任期5年で金融政策を担う。専門はグローバル経済分析) 「BS朝日 日曜スクープ 2024年5月26日放送分より」