しんくみ大賞は栃木の原口さん 「声かけはエール」になると信じて 全信中協主催「小さな助け合いの物語賞」
世界各地で軍事衝突が相次ぎ、それらの紛争の様子がニュースとして伝えられない日はない。特に子どもたちが被害に遭っている姿を見ると、心が痛くなる。世の中の不条理をいやが応でも感じざるを得ない中、それでも人が人を信じ、助け合ったり、声をかけ合ったりという行為は日常的に無数にあり、それらは人が生きていく上での「希望」というエネルギーに変えてくれる。 目立たないけど、小さな行為かもしれないけど、そんな助け合いの事例を発掘して顕彰する懸賞作文コンテスト「第15回小さな助け合いの物語賞」(主催:全国信用組合中央協会=全信中協、柳沢祥二会長)の受賞作文が10月18日、発表された。最優秀のしんくみ大賞には栃木県の原口眞帆さん(13)の「声かけはエール」が選ばれた。 ▽「助け合いって難しいことではない」 「小さな助け合いの物語賞」の募集は、信用組合の基本理念である相互扶助の精神を広く知ってもらう目的でスタートし、今年で15回目を迎えた。今回は全国から2686編の応募があり、しんくみ大賞のほか、大賞に次ぐ高評価のしんくみきずな賞1編、18歳以下の応募者の優秀作文に贈る未来応援賞2編、人に対する思いやりなどが感じられる作文に贈るハートウォーミング賞13編の個人受賞作品計17編と、作文応募に寄与した団体の功績をたたえる団体賞を一つ選んだ。 この日、都内の経団連会館で開かれた「第60回全国信用組合大会」での同賞表彰式で、しんくみ大賞、しんくみきずな賞、未来応援賞の個人受賞者4人と受賞1団体(表彰式は欠席)に表彰状が贈られた。 しんくみ大賞に輝いた原口さんの「声かけはエール」は、小学5年生の時に、脳腫瘍が見つかり、手術、治療のために、9カ月の入院をして、そこで出会った「名前も知らないおじさんとおばさんとの話だ」(原文、一部引用)。 治療時は2021年で、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた。このため、面会は制限され、家族にも会えないという心細い入院生活を原口さんは強いられた。そんな中、病院内の「お出かけ」先が、放射線治療を行う場であった。ただ、子どもは一人もおらず、出合う患者はすべて大人であった。 そこで、原口さんは「あと何回治療はあるの?一緒に頑張ろうね」などと笑顔で声をかけられ、とてもうれしく、勇気をもらったという。大人たちからの何げない言葉の数々により自分の「気持ちがどれだけ軽くなったか」と振り返り、「孤独になりがちな入院生活だったけど、コミュニケーションを取ることは、年代を超えて出来るのだ」と感じた。 原口さんは「助け合いって難しいことではなくて、声かけ一つで出来てしまうと思う」とあらためて気付いた。病院で声をかけてもらった自分が退院後、あいさつや声がけを積極的に行い、「誰かのエール」になれるよう頑張りたい、と決意したという。 表彰式であいさつした原口さんは「このような賞をいただけて大変、光栄です。入院生活はつらいことも多かったが、出合いも多く、一つ一つが自分の宝物です。これからも出合いを大切に、助け合いができるような人になりたい」と話し、会場からは大きな拍手がわき上がった。 しんくみきずな賞は、和歌山県の松木園紗絵さん(33)の「白杖の女性と大阪のおばちゃんと」が受賞した。松木園さんがたまたま、帰宅途中の電車の中で乗り合わせた、視覚障害がある白杖を持った若い女性、年配の女性との出来事を関西弁のセリフを交えながらまとめた。松木園さんは自分の作品について「関西のおばちゃんのパワーと言ってもいいかと思いますが、その気持ちを作文という形で表現し、みなさんにも伝われば、うれしいです」とあいさつ。 未来応援賞は、千葉県在住でスリランカ人のメニクプラ・メナーディ・ガヤツナさん(17)の「言葉を超えた優しさ」と、東京都の水野克大さん(18)の「ICカード」の二つが選ばれた。メナーディさんは「私は日本語があまり上手ではないのですが、そのような中で、助けてもらったことを作文にしました。自分も他の人を助けて、思いやりの心を持って生きていきたいです」と意気込みを語った。受賞後に取材に応じた水野さんは「両親から、『情けは人のためならず』とよく言われており、困っている人を助けることは自然なことでした」と話した。 ▽「地域の発展を目標にする金融機関」 各賞の表彰状授与後、信用組合のイメージキャラクターに就任した俳優の桜井日奈子さんが登壇した。桜井さんはイメージキャラクターに起用されたことについて「信用組合は、利益よりも、地域の人や地域社会の発展を目標にした金融機関であることを知り、私もその力添えをさせていただけるなら、という思いでお受けしました」と笑顔で話した。 桜井さんは、しんくみ大賞としんくみきずな賞の二つの受賞作文を、朗読して紹介。情感豊かな表現力で、2人の受賞者が作文に込めた気持ちを臨場感たっぷりに再現すると、会場は静粛に包まれた。各作文を桜井さんが読み終えると、来場者から大きな拍手を受けた。 ハートウォーミング賞の受賞者・作文タイトルや団体賞は次の通り(敬称略)。 【ハートウォーミング賞】▽井上咲季(兵庫県)「古い物には愛がある」▽池松俊哉(愛知県)「みかん狩りの思い出」▽岡桃子(愛知県)「あたたかな雪の日」▽浅野理恵(福島県)「恩送り」▽梅田純子(新潟県)「街角の外交官」▽西崎正一(兵庫県)「一杯のコーヒ一」▽松本清美(神奈川県)「受け取る心」▽佐々木野花(静岡県)「お爺さんと私。」▽加藤和子(京都府)「私の手を待っている人に」▽瀬戸水葉(埼玉県)「音の小さな世界で」▽西谷隼(岡山県)「おじさんの自転車」▽地濃和枝(東京都)「車椅子を押してくれたむじゃきな手」▽中島空澄(千葉県)「心の形を。」 【団体賞】徳育奨励賞=新潟市立巻東中学校(新潟県) 入賞作文は全信中協のホームページに掲載している。