「がん治療薬」で注目のイラン出身の女性ビリオネア、異色の経歴
競争がきわめて激しいがん治療薬の世界で、サミット・セラピューティクスは比較的小規模な企業だ。創業21年目のバイオテクノロジー企業である同社は、130人の従業員を抱えているが、収益はなく、承認された医薬品もない。 しかし、カリフォルニア州メンローパークに拠点を置くサミットは先日、同社の肺がん治療薬を投与した患者の生存率が、製薬大手の抗がん剤を上回ったと発表したことで、株価を急騰させた。ナスダックに上場するサミットの株価は9月6日以降に約2倍に上昇し、時価総額は20日時点で180億ドル(約2兆6000億円)に迫る勢いだ。 これを受け、同社の約5%の株式とオプションを保有する共同CEO、マキー・ザンガネの保有資産は11億ドル(約1590億円)に達し、ビリオネアの仲間入りを果たした。彼女は、米国で自力で資産を築いた34人の女性ビリオネアの一人であり、ヘルスケア業界でビリオネアとなった3人の米国女性のうちの一人だ(他の製薬業界の女性ビリオネアには、バイオ・ラッドラボラトリーズ創業者のアリス・シュワルツと、ユナイテッド・セラピューティクス創業者のマーティン・ロスブラットが挙げられる)。 サミットの直近の株価の急騰は、中国で実施した同社の肺がん治療薬「イボネスシマブ」の後期臨床試験で、一部の患者の生存率が米製薬大手メルクの抗がん剤「キイトルーダ」を投与した患者の生存率を上回ったと8日に発表したことで始まった。これを受け、同社の株価は9日に一時75%急騰し、過去最高値をつけた。 サミットは、2022年12月に中国の同業のアケソ(康方生物科技)からイボネスシマブのライセンスを取得した。この契約で同社は、アケソに5億ドルと、特定のマイルストーン達成時に45億ドルを支払うことになっている。サミットは、この薬を米国、カナダ、ヨーロッパ、日本、ラテンアメリカ、アフリカ、中東で販売する権利を持っている。アケソの共同創業者でCEO兼会長の夏瑜(ミシェル・シャ)は、サミットの取締役に就任している。 サミットが米国でイボネスキマブを販売するためには、米食品医薬品局(FDA)の承認を得ることが必要で、このプロセスには18カ月以上がかかる可能性がある。投資銀行スタイフェルのアナリストは、2025年までサミットに収益は見込めないと予測している。 ■イランのテヘラン生まれの54歳 現在54歳のザンガネは、異色の経歴をたどった後に米国のバイオテク企業のCEOに上り詰めた。イランのテヘランで生まれた彼女は、3人姉妹の末っ子で、両親は建築家だった。1979年初頭にイラン革命が起きたときに彼女は8歳だった。その翌年、イラン・イラク戦争が始まり、「私たちは常に爆撃の恐怖に直面していた」と彼女は2021年の回想録『The Magic of Normal』に書いている。 11歳の頃、父親の友人がドイツでビザを手配してくれたため、家族はイランを脱出することができた。彼女と両親はオーストリア経由でドイツに渡り、ハンブルク近くのオルデンブルクという小さな町で暮らすようになった。両親は最終的にイランに戻ったが、ザンガネは高校を卒業するためにドイツに残った。 彼女の2人の姉は、フランスのストラスブール大学で医学を学んでいたため、父親は彼女にも同じ大学に進学するよう勧めた。ザンガネは、同大学で歯科学を学んで1995年に卒業したが、本当に歯科医になりたいかどうか疑問だった。