じつは、海底火山の「断面」は自宅で再現できる…「岩石のプロ」が教える「驚きの方法」
海底地形データ
私はJAMSTECに入所してから20年以上、海の火山を研究してきました。最近では、小笠原諸島に属する西之島や福徳岡ノ場といった日本の海の火山の活動を研究し、そのマグマの成因を探ってきました。 海底火山の噴出物(溶岩や軽石など)を採取・分析することでさまざまな情報が得られるのはもちろんですが、火山の形を把握することも重要です。じつは、アナログな方法で海底火山の鉛直断面図を描くこともあります。その方法をみなさんに伝授しましょう。 まずは、海上保安庁海洋情報部のWebサイト内「海域火山データベース」にアクセスします。日本列島周辺の海の火山の情報が揃っている、便利なページです。たとえば福徳岡ノ場を表示すると、その周辺海域の海底地形図を見ることができます(図6)。福徳岡ノ場が北福徳カルデラのなかにできた火山であることが一目瞭然です。 このデータベースに地形の断面図を作成する機能はありませんが、海底地形図は公開されています。これをもとに地形の断面図を描くのは、じつはとても簡単です。必要なのは地形図と方眼紙、それからできれば製図用のテープをご用意ください(テ―プはなくても大丈夫です)。
海底地形の断面図を描こう
海底地形図には等深線が引かれています。断面図を描くときには、この等深線が重要です。それぞれの等深線が水深何メートルを表しているかわかりやすいように、深さごとに異なる色でなぞっておくとよいです。準備ができたら、以下の手順にしたがって描いてみましょう。 ---------- 海底地形図上で、描きたい断面の位置(方位)と幅を規定する直線を引く。この直線と各等深線が交わるところの水深が重要なので、あらためて水深を確認する。 次に、方眼紙の太い線に沿って水平な直線を1本書く。この線が水深0mを表すことになる。方眼紙の下向きに深さを設定する。たとえば1cmを水深100mとして、水深0mの線の左端に、下へ向かって、水深を示す軸を描いていく。この軸は、10cmで水深1000mを表す。 1.で引いた直線に沿って、地形図を折り曲げる。折り曲げた地形図を方眼紙の上に載せて、直線(折り目)と方眼紙の太い線(水深0 m)を重ねて、紙の両隅を製図用テープで仮止めする(テープがなければ、手で押さえるだけでも大丈夫)。 重ねたところの地形図の水深を、方眼紙の縦線に沿って下におろしてプロットしていく。たとえば、水深1000mの等深線が水深0 mの水平線と交わっていたら、その交点から10cm下に点を打つ。ほかの深さの等深線についても、同様の手順をくり返す。断面が島(陸地)をふくむ場合は、等高線に注目して、水深0mの線より上にプロットすればよい。 最後に、4.で方眼紙上に打ったすべての点をつないでいけば、海底の断面図となる。 ---------- 注意したいのは、水平方向と深さ(高さ)方向の縮尺が1対1ではないことです。深さ(高さ)方向に拡大されています。水平方向の距離を示すスケールと、深さ方向の距離の目盛りを、きちんと書いておく必要があります。 例として、私が描いた福徳岡ノ場をふくむ海底地形の断面図を2つお示しします(図7)。 一方は北北東‐南南西方向の断面、もう一方は北北西‐南南東方向の断面です。同じ海底火山でも、切る位置や方向によって、見た目の印象がけっこうちがうことがわかります。この形から、どんなことが考えられるでしょうか? (拙著『大陸の誕生』の4.3節で福徳岡ノ場の成り立ちについて考察したので、興味のある方はぜひご一読ください。) 以上が、海底地形の断面図の描き方です。みなさんも、お気に入りの海底火山の断面図をぜひ描いてみてください。新たな一面が現れてくるかもしれませんよ。 *次回、〈果たして、マグマはどのようにできるのか…簡単には溶けない岩石をドロドロにする「3つの方法」〉は、6月7日(金)公開予定です。 ---------- 大陸の誕生 地球進化の謎を解くマグマ研究最前線 ----------
田村 芳彦(海洋研究開発機構(JAMSTEC))