「習近平は弱い人間なんです」駐車場で突然、数人の男たちに囲まれ…次々と失踪する在日中国人…日本を狙う中国スパイのヤバすぎる実態
居住監視の恐ろしさ
当時、王毅外相はアメリカで台湾関連の発言が物議を醸していた。蔡英文新総統就任に関した講演で、所轄する国務院台湾弁公室は「越権行為だ」と抗議した。それが要因なのか? いや、知日派ゆえの何らかの確執が習近平の怒りをよんだのか? なぜ、蘇州の安全部と天津の安全部が絡んだのか? 勝手な憶測ばかりで真相は全く藪の中だ。 この「居住監視」を利用した拘留、尋問は自由な延長期間も含め中国・国家安全部だけに認められた独断と偏見で行われる捜査手法だ。つまり、本丸のターゲットはまず拘束せず、その証拠や繋がる情報を得るために「別人を拘束」する。もちろん、確実な証拠を固めて直接「本丸」を拘束し逮捕する場合もある。しかし、多くはこの「別人拘束」で情報を引き出そうとする。 携帯電話やパソコン、手帳などの情報はすべて押収される。その中には当然、華僑関係者だけではなく、政治などには関係ない普通の多くの日本人たちの個人情報も含まれる。「拘束されたのは中国人だから」と他人事のように安心してはいられない。日本人の様々な個人情報やビジネス情報が漏洩する可能性も大きい。日本人も同様に知らないうちに危険な中国諜報活動の餌食になっているのだ。 そして狙った情報が何もでなければ解放するか、面子を守るため無理やり容疑をつけて起訴する。その「空振り」の責任も全く問われない。劉氏も合計4か月の拘留後、解放された。帰国の際には空港で天津安全部の人間に「日本での華僑運動を頑張ってください」と励まされたという。 いまや習近平の右腕として戦狼外交の代表選手のような王毅外相だが、中国共産党の権力闘争の闇は深い。外交部は海外人脈との接触が多く安全部のターゲットにもなりやすい。また歴代外相の政治的地位も他国に比べて共産党政権では決して高くはない。
「空振り」の被害者
その火の粉を浴びた劉氏は、「表に出ないが他にも国家安全部に理由もなく捕まった華僑はいっぱいいる。帰化していない華僑は中国籍なので当然、日本政府にはなにも期待できない。中国側も自国民なので拘束の情報をいっさい出さない」という。しかし、彼らは中国にいる家族や親族への報復を脅され、一切口をつぐむ。そして闇から闇へ葬られあらゆる情報が国家安全部に流れていく。 2016年ごろ大阪領事館の隣で商売をしていたRさんは、突然拘束され6年の実刑判決を受けた。刑期を満了して出所したが日本にしか親族のいないRさんは帰国を希望した。しかし、パスポートの期限が切れ、日本への再入国への許可も中国側が認めず、人生を悲観して北京で自殺した、という。 そのほかにも、劉氏が把握しているだけでも居住監視で何か月も拘留され「空振り」で解放されたり、起訴され実刑を受けた人などが何人もいるという。しかし、彼らは一切報道されていない。 今年の春節、広島華僑総会のイベントで、大阪総領事・薛剣氏の隣に座った劉氏は、彼に友人で親しい神戸学院大学の胡教授が失踪している件について尋ねた。しかし、胡教授とも懇意にしていた総領事の返事はあまりにそっけなかったという。逆に彼らは劉氏はじめ失踪した胡士雲教授の家族たちを避けるようだった、ともいう。 胡士雲教授の事実関係を調べる気もなかった、と劉氏は訝る。劉氏が過去に拘留されたことも彼らはほとんど把握していない。確かに領事館にも安全部の情報はまったく伝えられない。そして領事館ほか外交部も北京の国家安全部を恐れ、忖度し、自分たちの保身だけを考えている。 「胡士雲さんがいま自分が経験した居住監視下に置かれていると想うと心配で心が痛い」と劉氏は言う。そして、厳しくこう言った。「しかし、領事館は中国政府の人間として、我々を守る義務がある。はっきり安全部に状況を確認するべきです。いつまでもこんな習近平の独裁恐怖政治は許されるわけがない。習近平は弱い人間なんです。こんな状況では国が持たないでしょう」 習近平が掲げる「総体的国家安全保障観」。これこそがいま、中国社会の「総体的国家危機観」を急速に増殖させているのだ。
鈴木 譲仁(ジャーナリスト)