【最短相続のための賢い新制度活用術】株、生命保険、不動産「どこになにが?」…煩雑な財産調査をしないで済む“一発照会制度”とは
手続きが膨大で面倒──相続にはそんなイメージが付きまとうが、最近になって簡単に済ませる新制度が次々に登場し、それらをうまく活用すれば劇的に簡潔になる。「最短相続」を実現する制度活用術を解説する。 【表】生命保険の契約照会など、財産整理を効率的に進める制度5
故人の相続財産が多岐に渡ると、それだけ手続きに時間を要する。これまで出版した相続や税金に関する著書は20冊を超える相続専門の税理士で社会保険労務士の佐藤正明氏が指摘する。 「何行もの銀行口座や証券口座、不動産をたくさん所有している人ほど相続は煩雑になりがちです。高齢者の場合、ペイオフ対策で複数の銀行口座を持っているケースが少なくない。相続が発生すると金融機関ごとに解約の手続きをしなくてはなりません。 生きているうちになるべく使わない銀行口座や証券口座は解約しておくこと、また証券口座に保管した株などの有価証券は現金化しておくことが望ましいのですが、それをせずに死没してしまうケースは多い」 その結果、どこにいくらの財産が眠っているのか分からず、いくつもの金融機関に問い合わせをし続ける人が散見されるという。 「新NISAが投資ブームを後押しするなか、老後資産を株や投資信託で運用するケースが増えました。ネット証券の利用が増え、取引残高報告書や配当金の通知などが郵便物で届かず、残高どころか存在自体を把握できないという相談をよく受けます」(同前) こうした事態に直面した際、心強い味方になるのが、証券保管振替機構(通称・ほふり)だ。 「証券口座に預けられた株式を保管し、名義書き換えや売買に伴う受け渡し、株主への通知などを担う機構です。ここに開示請求をすると、保有する上場企業の株や投資信託の口座情報を2週間ほどで知らせてくれます。その後、各証券会社に問い合わせて、実際に保有する株や投資信託を確定します」(同前)
42社の契約を一括照会
生命保険でも「故人の契約内容が分からない」といったケースが頻発する。生命保険は受取人が請求しないと保険金が支払われないので、契約内容の把握は死活問題となるが、ここでも便利な仕組みがある。 一般社団法人・生命保険協会が運用する生命保険契約照会制度だ。東京国際司法書士事務所代表でこれまで相続や借金に関して1万人以上の相談を受けてきた司法書士の鈴木敏弘氏が解説する。 「法定相続人と遺言執行者などの一部代理人に限り、故人の保険契約内容を照会できます。申請者の本人確認書類や戸籍謄本などを生命保険協会に提出すると、協会に加盟する42社の契約を一括で照会できます」 不動産の調査はどうか。 認定ファイナンシャルプランナー(CFP)や終活カウンセラー、シニアライフコンサルタントの資格を持ち、全国的にも珍しい相続専門の行政書士として活動する中田多惠子氏が語る。 「遠隔地にある不動産の情報を集められるのが名寄帳です。名寄帳は自治体が作成する固定資産課税台帳を所有者ごとにまとめたもの。私道や山林など固定資産税の通知書に出てこない不動産も確認できます。閲覧、取得にはその不動産がある市区町村役場に赴くか郵送での取り寄せをしますが、被相続人も把握していないような不動産まで確認できるので便利です」
名寄帳は、役場に直接赴けば数十分程度で取得できる。 なお、2026年2月には特定の名義人が所有するすべての不動産を一覧できる所有不動産登記証明制度が始まり、全国どこからでも不動産の情報を取得できる予定だ。 一方、銀行口座には有価証券、生命保険、不動産のようにまとめて可視化する仕組みがない。 「特に海外の銀行の場合は預金内容を確認するやり取りに数か月かかり、相続税の申告に間に合わなくなるケースもあるので注意しましょう」(佐藤氏) ※週刊ポスト2024年10月18・25日号