小山卓治のベストアルバムから辿る、シンガー・ソングライターとしての歩み
愚か者たちの短編集みたいなイメージで作った
NO GOOD! / 小山卓治 田家:デビューアルバムのタイトルが『NG!』。 小山:そうですね(笑)。これはちょっとした逸話があって、最初『Voice』っていうアルバムのタイトルを考えたんですね。それでレコード会社に報告にスタッフが行ったら、帰ってきてVoiceがNGになっちゃったよって言われて。なんでですか!って言ったら、同じレコード会社に同じ発売日に織田哲郎さんが『Voice』っていうアルバムを出すってことが先に決まっていたらしいんですね。それでNGになっちゃったよーどうする? じゃあNGにしちゃえっていう勢いですね。 田家:そっか、「NO GOOD!」のNGじゃないんだ。 小山:もちろんそれもあるんですけど。 田家:「NO GOOD!」は表参道の角のとんでもないところで書いて。 小山:そうですね。まさに。スキップしながら書きました(笑)。東京ってすげーなって思いながら、どんどん湧き出てくる感じがしましたね、その頃。 田家:小山さんのホームページに全アルバムについての解説がご自分で書かれておりまして、デビュー・アルバム『NG!』はシングルの「FILM GIRL」以外は東京に来て書いた曲だというのもありましたね。 小山:東京に出てくるときに4曲入りのデモテープを作ってきたんですけど、そのカセットテープの中の1曲が「FILM GIRL」だったんですね。それでデビューが決まったんですけど、それ以外の曲を聴かせてくれって当時のプロデューサーに言われて、200曲くらい作っていたからわりと自信もあったんですけど全部ダメって言われて、今から書き直せって言われて。そういう切羽詰まったこともあったんですけど、そういうこともあって曲がどんどんできましたね。 田家:1982年に上京されているわけでしょう。本当にすぐだったんですね。25歳になっていた? 小山:もう25歳でしたね。だからわりと切羽詰まっている感じもありました、田舎ではね。これ以上いると居場所がなくなるなという感じはありました。 PARADISE ALLEY / 小山卓治 田家:この曲を書いたときは? 小山:これはわりと気分よく作った曲です。 田家:気分いい曲ですもんね。 小山:そうですね。ただ、なんかこう気分いいだけじゃやだなというのもあって、サビのフレーズ「I’m Lookin’ For A Paradise Alley」、追いかけのコーラスは「It’s Too Late」って歌っていて。どっちもあるなというのを自分の中で考えながら作った歌でもありますね。 田家:この曲の入ったアルバムは1984年に出た2枚目のアルバム『ひまわり』。ホームページの解説には1stアルバムを作り終えて一滴も残ってなかった。 小山:そうですね。『NG!』を作り終えた後は本当に空っぽでして、何にもないなと思って。25年も生きていればアルバム1枚ぐらい誰だって作れるなという気はしていたんですね。問題はその後だなという気はしていて、その後何を歌うんだろうと思ったときに最初は浮かばなかったんですよね。でもやっぱりギターを抱えていろいろ考えていると、いろいろなものが浮かんでくる中で1stアルバムとはまた違うテイストの曲ができてきたんです。僕はそれを当たり前だと思っていたんですけど、今までやったことと同じことをやってもしょうがないなというのもありましたし。で、2枚目のアルバムを作り始めましたね。 田家:『ひまわり』についての解説の中には、ビルの影からチャンスを伺うのではなく、陽のあたる場所に向かう人々のレコードにするつもりだった。 小山:そうですね。これは情景描写のみの歌で、誰かが夢を掴もうぜという歌では全くなくて。なので、できちゃったんだなというのは自分でも意外だったんですけども、きっと俺は次のアルバムではこんなことをやりたいのかもしれないなというのはその曲が生まれた頃から考え始めて、それからまた曲が生まれてきた感じですね。 田家:Disc1には1985年のアルバム『Passing』、1985年のマキシシングル『微熱夜』、1986年の『The Fool』、1987年の『VANISHING POINT』という、その中のアルバムの曲が入っているのですがその頃のご自分はどんなふうに思われるんですか? 小山:アルバム1枚ごとに何かしら1つのテーマとして設けたいなという気持ちがすごくあって、『Passing』のときはバンドサウンドのイメージでバンドのメンバーを集めたりとかして、その中で結構ロックンロールというよりもロックなものをやってみたいなという気持ちがありましたね。『The Fool』は少しメンバーも変わったりしたんですけども、これは短編集みたいなアルバムにしたいなと思って1曲1曲にいろいろな登場人物が出てくる、そんな人たちの愚か者たちの短編集みたいなイメージで作りました。 田家:そういう話は来週もお訊きすることになるかと思いますが、Disc2は1989年の「Once」が入っている『夢の島』から始まっているのですが3曲目をお聴きいただきます。