(C)2024 Yoshitomo Nara ; Courtesy of the Yoshitomo Nara Foundation and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York

東京・原宿のBLUM東京にて、奈良美智の個展「I Draw the Line」が開催中だ。ここ1年間に生み出された作品を中心に、作家の現時点を堪能することができる。 【写真】奈良美智の個展「I Draw the Line」 初期の頃から、ノートの切れ端、郵便で届いた封筒、段ボールの断片など、身近にあるさまざまな紙の上に、瞬間のひらめきを捉えながら自由に筆を走らせてきた奈良美智にとって、ドローイングは極めて重要な営みだ。繊細な線やポップな色彩によって作家のみずみずしい創意が定着されてきた。 一方近年は、手元の視界の中に鉛筆やポールペンなど比較的細い線描によって親密な表現世界を築き上げてきたこれまでのドローイングとは異なり、よりモニュメンタルな性格を強めてきた。 モノクロームの描線によるドローイング、抑制された色使いのペインティングなど、切り詰められた造形による表現の可能性を追求する本展。パンクロックグループ・THE STAR CLUBの著名な楽曲に触発された作品『DEFIANT GUYS』は、ポスターに近い大判の紙に黒一色の太い線で描き出されている。「反抗するやつら」の炸裂するエネルギーをそのまま乗せたような、線のスピードとリズム、そして大画面の迫力が見るものを圧倒させる。 また、今年の夏に北海道の洞爺で制作された一連の作品もまた、同じくモノクロームの大型ドローイングのシリーズだ。東日本大震災後、北海道を活動の重要なフィールドとする奈良。本シリーズは、自然と人間、あるいは動物と人間が一体化した表現が特徴的だ。震災後の奈良が、自らの存在をより大きな世界と歴史の中で捉えるべく踏み出した旅路への産物とも言える。 ©2024 Yoshitomo Nara ; Courtesy of the Yoshitomo Nara Foundation and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York また本展では、3点のペインティングも公開。ノートの端切に黒のマーカーでスケッチしたドローイングをした絵に、その画像をプロジェクターで木製パネルに拡大投影し、映し出された像をアクリル絵の具でトレースしながら制作したものだ。作家が2000年半ば頃より手がける「ビルボード・ペインティング」という制作技法だ。時折ドローイングに書きつけられる心の叫びのような言葉や、お気に入りのミュージシャンの歌詞などが、看板にも似た大画面に拡大され、強い訴求力を帯びている。 2024年6月からスペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館で始まった大規模な個展が現在ヨーロッパを巡回中の奈良。BLUMでの9回目となる本展では、国際的な評価が高まり続けているこの作家の現在地を知ることができるはず。