新政権でも変わらぬ「円安 or 金利上昇」の二者択一、依然旺盛な家計資産の外貨流出、避けるべくは「日本版トラスショック」
本稿執筆時点のドル/円相場は依然143~144円付近で膠着状態にある。9月、日米の金融政策決定会合を無難に消化したことで材料難の様相が強まっているものの、自民党総裁選を経て、米大統領選挙が近づけば政治的材料に駆動される相場がまた始まるだろう。 【図表】100兆円を超えた外貨性資産 自民党総裁選においては各候補からは経済政策について様々な言動が見られているが、誰が日本経済の指揮を執ることになったとしても、今後の日本が人口減少を背景として名目賃金の上昇が持続性を伴い「デフレからインフレへ」という大きな経済環境の変化に直面することはほぼ既定路線とも見受けられる。それは言い換えれば「金利の無い世界」から「金利のある世界」への局面変化も意味する。誰が総裁(ひいては総理)になるとしても、四半世紀以上も変わらなかった財政・金融政策の大前提が変わる中、新政権の経済政策は執行されなければならない。 その大前提の変化は何を意味するのか。一般論に倣えば、「金利のある世界」での歳出は「金利の無い世界」でのそれに比べて抑制的であることを求められ、いわゆるバラマキと揶揄される拡張財政路線は望む・望まないにかかわらずやりづらくなる。しかし、それが嫌だからと言って「金利の無い世界」を志向すれば、今度は円安がぶり返す。 結局、新総裁は「円安か金利上昇の二者択一」を迫られる中、今までよりも制限された経済政策(財政・金融政策)の手札で執政が求められる。これまでのように何かにつけて低所得世帯に財政出動を頻発するような財政運営を重ねていれば、為政者の制御が働きにくい為替市場において野放図な通貨安のリスクが高まるだけだろう。必然、選択できる経済政策の組み合わせは過去の政権よりも限定的になる。
外貨性資産は初の100兆円突破
こうした政治環境の中、9月19日に日銀から公表された今年4~6月期の資金循環統計が教えてくれる情報は非常に重要であるように感じられた。過去の本コラム「唐鎌大輔の経済情勢を読む視点」でも家計部門にまつわる資金フローとそれが為替相場に与える影響を考察する観点から定期的にこの統計の数字に着目してきた。 今回の結果も本邦家計部門における「貯蓄から投資」の動きを再確認するものであり、それは「円から外貨」を意味する動きでもあった。日米金利差縮小にもかかわらず、意外と底堅い推移を示すドル/円相場を理解する上でも、やはり注視したい計数である。