<ドクター紹介>患者は「同志」 対話し思い共有 倉敷中央病院放射線治療科医長 花澤豪樹
日進月歩で技術革新が進む医療の世界。岡山県内でもそれぞれの専門分野で先駆的に取り組む医師たちがいる。診療現場を訪ね、命をつなごうと奮闘する姿を追う。 ◇ 昨年秋、倉敷中央病院(倉敷市美和)で創立100周年を記念したミニコンサートが開かれた。グランドピアノが置かれたセントラル・パーラーには、70人ほどの患者が集まっていた。 この日の出演者は放射線治療科医長の花澤豪樹(ひでき)(39)。白衣から黒のシャツと黒のスラックスに着替え、ピアノの前に座った。ベートーベンのピアノソナタ、シューマンのトロイメライ…。花澤が紡ぎ出す柔らかな音に、観客は魅了されていた。 小学生の時にピアノを習った後、しばらくブランクがあり、コンサートが決まると猛練習を続けてきた。人前での披露は勇気がいる。それでも挑戦したのは、医師ではない素の自分を患者たちに見てもらいたかったからだ。 診察室ではどうしても医学的なデータや専門知識中心のやり取りになってしまう。「一緒に病を乗り越える同志でありたい。そんな応援メッセージが演奏から伝わればいいなと思っています」と花澤は言う。 信頼関係 花澤は放射線を駆使し、がんを死滅させる治療を専門とする。手術、化学療法とともに、がんの3大治療の一つに数えられる。検査を行い、病状に応じて照射期間・量など治療計画を決めていく。 担当する患者の中には病状が深刻な人も多く、10代の若者もいる。そこで最も大切にしているのが、患者との対話と思いの共有だ。何度も話を聞きながら信頼関係を築き、本人や家族が何を一番望んでいるのか、どう治療していきたいか。十分くみ取った上で計画を練る。 ミニコンサートを最前列で聴いてくれていた大学生の患者の時もそうだった。 脳腫瘍を患っていた。治療を最優先するなら、放射線を強めに当てた方がいい。だが、副作用は強く出てしまう。学校に早く復帰したいという本人や家族の希望を踏まえ、照射量を少なめに設定したり、照射期間を短縮したりした。勉強したいと心から願うのが手に取るように分かったからだ。 「医者は単に病気を治せばいいのではない。患者の人生を背負う覚悟で臨んだ」と振り返る。