<米大統領選>“ブッシュ家の最高傑作”ジェブ氏は共和党で勝ち残れるのか?
ジェブにとって、さらに逆風なのは、「ブッシュ」という名前かもしれません。ナインイレブン後のアフガニスタン報復、イラク戦争に続く、長い戦いは、国際的な批判とともに、財政を圧迫し、米兵の命を奪ったという意味でアメリカ国民にとっても不評です。アメリカ国民がいまだ「イラクショック」の中にある中で、イラク戦争を行ったブッシュ大統領の弟が再び大統領になることに懸念も少なくない形です。 もし、民主党候補がヒラリー・クリントンとなった場合には、候補者は異なっていたとしても「ブッシュ対クリントン」という1992年の大統領選挙の「再現」となり、アナクロであるという感もあります。政治的分極化を超えるため、超党派の妥協などを訴える団体「ノーレーブルズ」は、穏健派どうしの戦いとなることから、すでに「ブッシュ対クリントン」を強く歓迎していますが、これは必ずしも一般的な意見とはいえません。
「世襲」に対するアメリカの反応
アメリカにも、ケネディ家に代表されるような名門の政治一家があります。ブッシュ家もジェブの母のバーバラ・ブッシュは第14代大統領のフランクリン・ピアースの血筋ですので、「家業は政治」といえるような超名門の政治一家です。ただ、生まれついてのエリートを嫌う風土もアメリカにはあります。リンカーン大統領の時の「丸太小屋からホワイトハウスへ」といった立身出世話は、たとえ誇張が入っていたとしても、アメリカでは好まれる傾向にあります。 昨年の中間選挙では、カーター元大統領の孫が知事選に、サム・ナン元上院議員の娘が上院議員選挙に出て、いずれも敗北しているように、世襲候補にとって名前は自己PRの材料にはなりますが、長い選挙戦の中、メッキが剥げていくケースも少なくないです。 いずれにしろ、“ブッシュ家の最高傑作”の今後が非常に注目されます。
■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後,ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA),メ リーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単 著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『ネット選挙が 変える政治と社会:日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著,慶応義塾大学出版会,2013年)