次はパリ五輪。バドミントン・奈良岡功大が日本のエースに上り詰めるまで
「負けてもいいじゃん、がんばっているんだから」母の言葉で吹っ切れた
ところが、新型コロナが広がり、海外だけでなく、日本の大会もほぼ中止となる。そのとき、奈良岡は世界ランキング42位で日本のB代表だったのだが、海外の大会が再開しても出場できる選手はA代表のみ。 図らずも、大学の大会に出場して関東大学リーグの日大優勝を牽引することとなったのだ。ただ、そんな状況でも、彼は前向きに考えていた。 「自分と同世代のクンラブット選手なんかを見ていて、ここまでにはなれるんだと思っていました。確か、彼がそのとき10位ぐらいだったかな。試合に出られさえすれば、そこまで行ける、ならば自分が今できることをやっておこうと、体力作りや試合勘を取り戻すことを主に、練習やトレーニングをしていました」 予想は的中する。通常通り大会が行われるようになって1年ほどの2023年の8月、奈良岡の世界ランキングは3位まで浮上。日本のエースと呼ばれる存在にまで上り詰めた。次の楽しみはパリ・オリンピックだ。 「オリンピックの選考レースは、最初の頃はストレスが半端じゃなかった。そんなときに、母親が“負けてもいいじゃん、がんばっているんだから”と言ってくれたんです。22歳だし、まだ3回は行くチャンスがあるって。 それで、ランキングを上げて注目されたいとか、勝って賞金が欲しいとか、子供みたいな考えで通そうって思った。オリンピックも頭に浮かばない。それがよくて、ここまで繫がっているんだと思います。だから、今はファイナルに出場することが目標なんです。高いんですよ、この大会の賞金が(笑)」 ファイナルとはBWFワールドツアーファイナルズのこと。ツアーの上位8人による頂上決戦だ。昨年の12月に行われたので、これを読んでいる人は結果がわかっているはず(この記事の執筆は2023年11月末時点)。 それでも、やはりパリ・オリンピックなのだ。彼の活躍を期待しながら、見てみたいものである。
取材に伺った日の練習メニュー
今回、奈良岡はそれほど激しい練習は行わなかったが、ショットの多彩さは十分に理解できた。たとえば、ネットのギリギリ上を通過させてシャトルを打ち合う。ネットから浮いてしまうと、実戦では反撃される材料となる。 また、後方へ大きく打つロブ。体勢を立て直す時間を稼ぐショットだ。そして、スマッシュ。相手のコートに一直線に打ち込むこのショットはもっとも攻撃的。打ち出した瞬間の速さがとにかくスゴイ。
取材・文/鈴木一朗 (初出『Tarzan』No.871・2024年1月4日発売)