「転倒は要介護の引き金に」 高齢者のQOLを下げる「転倒」を防ぐために…簡単にできる「ながらトレーニング」
若いころは二重課題をこなせるが……
なぜ、一つの動作だけをすることが重要なのか。それは、二つ以上の動作を同時に行うと、意識・注意が分散してしまい転倒しやすくなるからです。 歩きながら傘を開く、歩きながらかばんから財布を取り出そうとする、歩きながらスマートフォンを操作する……。一度に複数の課題をこなすこれらの動きを「二重課題(デュアルタスク)」と呼びます。それこそ、若い頃は二重課題だって訳もなくできていたはずです。ところが高齢になると、加齢に伴い機能が低下している大脳が、二重課題に対してどう体を動かせばいいのか瞬時に判断できないせいで、もたついてしまう。その結果、バランスを崩して転倒するケースが出てくるのです。 ですから、転倒防止のためには二重課題を避けることが重要です。歩きながら傘は開かない、ちゃんといったん止まってから財布を取り出す、歩いている時はスマートフォンをいじらない。こうしたことを心がけるだけで、転倒リスクは大きく減らすことが可能です。
転倒リスクがない状態で二重課題を練習
大脳を混乱させ、転倒のリスクを高めてしまう二重課題ですが、裏を返せば、転倒リスクがない状態で二重課題を練習すれば、大脳の処理能力を鍛えられ、転倒予防に有効といえます。 実際、私たちが全国7カ所のリハビリ施設と共同で行った研究によって、二重課題の訓練が認知機能と身体機能の双方を高めることが分かり、その結果をまとめた論文が今年5月に医学雑誌に掲載されました。 具体的には、施設に通っている高齢の患者さんを、器具を用いて手こぎと足こぎ、すなわち上肢と下肢を交互に動かす運動(クロスステップ運動)だけをしてもらった群と、その運動と同時に液晶画面に映し出された問題を、声を出して読みながら解答してもらう群とに分けました。例えば、「この中で三重県の形はどれでしょうか?」とひっくり返った形を選ばせるといった、義務教育レベルだけど解きづらい問題などです。 その結果、後者の群において、下肢の機能および認知機能が有意に、あるいは顕著に改善したのです。ごく簡単に言うと、運動しながら問題に解答するという二重課題を行った結果、相互作用が働き、認知機能も身体機能も良くなったというわけです。