「森山未來さんの動きは絵に起こしや すい」実写→アニメ化の制作陣が絶賛 37歳の化け猫を演じた森山の凄さ
実写チームが驚いた「天気に左右されない」アニメの面白さ
──実写とアニメで、山下監督と意見の相違や見解の違いなどは生じなかったのでしょうか? 撮影から参加して、山下監督がどんな熱量でお芝居を撮っているのか間近で見せていただいたので、そこに対する不満や意見などはまったくありませんでした。逆にお互いがお互いを尊重し合って、いい形での相乗効果が出せたのではないかと思っています。 意見の相違ではありませんが、山下監督が「天気に左右されない」ことを面白がってくれたのは新鮮な感覚でした。 実写の場合、明るいシーンを撮るのに「晴れ待ち」などをしたりするそうですが、ロトスコープの場合は、背景やお天気はあとからどんなふうにも変えられるので、天気に左右されません。 夜でも昼間にできるし、晴れていてもあとから雨を降らせることもできます。アニメーションを描いているとあたりまえのことですが、山下監督から「アニメーションって面白いね」と言われ、そうか、面白いのかとあらためて気づきました。 ──今作を作り終えた感想をお聞かせください。 実写で撮影したものを徐々にアニメ化していくのですが、少しずつ実写から絵の部分が増えていくので、観るたびにはじめての作品に出会う新鮮さがありました。 できあがったときは、それまで「実写映画」として観ていたのにいつのまにか「アニメ映画」の味わいも加わって。音楽も入るとまた違った印象になり、それが面白いなと思いました。 ゼロからロトスコープで長編作品を作ったのが今回はじめてだったので、最初は苦労しましたが、山下さんにとっても長編アニメーション作品にかかわるのははじめてです。「はじめて」を共有できる方とご一緒できたという点では、とても安心感がありました。 ──今後挑戦したいことや目標などあれば教えてください。 今作で私は、あらためてお芝居の大切さに気がつきました。 これまでは、俳優さんがどんなにいいお芝居をしてもアニメ化することで情報量が減ってしまうと思っていたんです。でも今作で、実写のお芝居って実はアニメに持ってこれるんだということを初めて体感できました。これは、山下監督がお芝居を大事にされていたからだと思います。 動きが増えれば増えるほどアニメ化は大変にはなりますが、俳優さんのうなずき一つ、動き一つで感情表現は大きく変わるので、いいお芝居を見つけ拾っていくことも大事なんだと気づけたのは大きな発見でした。 私は実写の監督ではないので、この先実写映画を作ることはないと思いますが、実写でもアニメでもいま、女性の監督も増えてきていますし、これからもどんどん新しい才能が生まれてくると思います。そういう方たちと一緒に、お芝居の大事さをどう自分の世界に持ち込んでいくかということも、考え続けていけたらいいなと思っています。 久野遥子(くの・ようこ) 1990年、茨城県つくば市生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2015年、岩井俊二監督による『花とアリス殺人事件』のロトスコープアニメーションディレクターに抜擢され、以降『宝石の国』の演出・原画や、『ペンギン・ハイウェイ』のコンセプトデザイン、映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』のキャラクターデザイン・コンテ・演出・原画等で活躍している。
相澤洋美