北の畑地を〝縦横無尽〟 トラクター4台、同時に遠隔操作
広大な農地を駆ける、4台の大型トラクター。運転席には誰もいない──。 食料自給率1200%の北海道・十勝で11月、農高生や行政、総務省職員、メーカーらが見守る中、JA帯広かわにしなどが、大型農機の無人同時走行の実証試験を行った。畑の脇で、JAの有塚利宣組合長がタブレット端末の走行ボタンを押すと、離れた場所にあるトラクターが1台ずつ動き出した。畑の端に着くと自動で旋回。動物や人が近づくと停止する。 【動画】トラクター4台を遠隔で同時操作 例えばジャガイモでは春には耕うん砕土、整地、播種(はしゅ)、培土、秋には収穫、整地など、複数の作業が同時に可能となる。 帯広市で150ヘクタールを手がける畑作農家は「芋を収穫すればすぐに小麦に向けて整地しなければならず、畑作は作業が集中する。未来型の農業で適期作業が可能になる」と話す。 農家戸数の大幅な減少に伴い1戸当たりの規模拡大が進み、トラクターのオペレーター不足が深刻化する畑作地帯の十勝。JAでは課題解決の一助に、スマート農業を広げていく方針だ。JA管内の農家は本年度、内閣府の交付金を活用し、ロボットトラクターを18台、ドローンを25台購入した。 JAは今春、帯広畜産大学や農機メーカーなどとコンソーシアムを設立。総務省の「地域デジタル基盤活用推進事業」を活用し「夢のロボット農機を走行させよう」と実証を進める。長距離間を通信できる次世代のWi-Fiを活用し、遠隔で複数台のロボットトラクターの同時操作を可能にした。同大学の佐藤禎稔特任教授は「日本唯一の技術。近い将来、生産現場で実装ができる」と強調。ドローンでナガイモの発病株を空から特定する実証も進む。 JAは帯広農業高校とも連携し、スマート農業を担い手教育につなげている。有塚組合長がスマート農機を見学する農高生たちに「最先端のデジタルを使い、十勝の豊かな農業をさらに進め食料安全保障を実現する」と語りかけると、歓声が上がった。 実家は帯広市で24ヘクタールの畑作農家という1年生の田邊潤希さん(16)は「かっこいい。僕もスマート農機を操る十勝の農家になりたい」と目を輝かせた。 (尾原浩子、撮影=山田凌)
日本農業新聞