【MotoGP】スプリントレース初導入のMotoGP、クラッシュ増加はどうだった? ”目的”の成否と合わせた評価は如何に
MotoGPは2023年シーズンから、最高峰クラスの全戦でスプリントレースを導入した。しかしこの1年のレースではレギュラーライダーが一度も全員揃わないなど負傷離脱者が多く、スプリントレースを批判的に見る向きも多々ある。しかし、全ての責任をスプリントレースに負わせられるのだろうか? 【ギャラリー】グレシーニ、マルク・マルケス加入の2024年カラーリング発表 MotoGPがスプリントレースという新しいフォーマットを導入したのは、より多くの人の興味を引くためであり、2023年の各レースの統計値を見る限り、その目論見通りに事は進んでいるようだった。 全20戦が行なわれた2023年シーズンだが、そのうち15戦の土曜日では2022年比で観客動員数が増加している。残る5戦についても、アメリカズGPが統計データを入手できず不明。インドは初開催であり、インドネシアGPとアルゼンチンGPが微減、オーストラリアは悪天候によるスケジュール変更で中止という内訳となっている。また全体としては20戦中16戦で2022年と比べて動員数が増加している。 もちろん、2022年がまだコロナ禍の影響の残っている時期だったことなども考慮すべきだ。ただ観客動員が好調なことから、MotoGPの人気を引き上げようとしているドルナ・スポーツの取り組みは称賛に値するものだろう。 ただ実施された全39レースで、一度もレギュラー参戦のライダーが全員揃わなかったということは議論が避けられない観点だろう。 この原因をスプリントレースに求める向きもある。ドルナの統計(2010~2023年)によると、2023年のMotoGPクラスの全クラッシュ数は358件、2010年は134件となっている。なお2022年(335件)比だと23件増加している。 クラッシュの内訳を見ると、スプリントレースでは49件が発生しており、2023年にレースを欠場したライダー9人のうち、5人はスプリントレースで負傷している。 一方で、依然としてクラッシュの多くは決勝レースで発生しているというのも事実だ。2023年は決勝で86件のクラッシュがあり、レース序盤に発生するケースが多く見られた。 またスプリントレース導入に伴い、予選の振り分けを決定づける初日のプラクティスの重要度が上がり、クラッシュも増加傾向となった。 2023年は金曜午後セッション(イギリスGPまでのFP2、以後はプラクティスという名称に変更)で108件のクラッシュがあったが、2022年は金曜午後に行なわれたプラクティス2でのクラッシュはわずか50件だった。ただ2022年までの予選振り分けにはFP3までが関わっており、FP2とFP3の合計では118回となるため、これも一概に増えたとは言い辛いだろう。 クラッシュ増の要因については、タイヤの内圧管理が厳格化され、ペナルティ対象となったことも関係しているはずだ。特に近年はエアロダイナミクスの発展によって後方を走るマシンはフロントタイヤの内圧が上昇しやすい傾向にあり、乱流による影響も受けるようになってしまった。 その上で、レースが週末に2回行なわれるため、クラッシュ増加とスプリントレースフォーマットに無視できない因果関係があるというのも確かだろう。 「これは偶然じゃなく、大きな問題だ」 グリッドの全員が揃わなかったことについてそう語るのはヤマハのファビオ・クアルタラロだ。 「僕らのバイクはとても肉体に負荷がかかるし、毎回のグランプリでスプリントを行なう必要はないと思う」 「バレンシアはシーズン最終戦だけど、いつも満員だろう」 「なぜ土曜日にもうひとつレースを追加したいと思うんだ? これ以上ついていけないよ」 「僕は企画する側の人間じゃないし、他のライダー達全員の意見がどうなっているかはわからない。でもこれは正しい道じゃないと思う」 「42レースも44レースも大差はない。でもこれだけレースがあって、オリジナルのメンバーが揃わなかったのは残念でならない」 クアルタラロのこうした見解は多くのライダーも同意するところだ。ただ当然反対の意見もある。モータースポーツでは特に自分がどのポジションでフィニッシュしたかも、こうした意見に反映されるためだ。 しかし先にも述べたように、MotoGPは2023年に土曜の観客動員を伸ばすことに成功している。その意味では、スプリント導入は成功しているのだ。その観点からは、チャンピオンシップがスプリントを継続することに異論はない。 ただ、2023年にレギュラーライダーが揃うことがなかったという点は、考えものだ。特にレース開始直前に流れるオープニング映像ではレギュラー勢が揃っているだけになおさらだ。MotoGPに怪我はつきものではあるが、カジュアルなファンが見ない顔でブランドを構築しようとするのは、持続可能な方法ではない。 考えられる方策はシーズン中のスプリントを減らすことだ。チャンピオンシップにもバラエティをもたらし、シーズンの重要な局面での“掛け金”が増えるだけでなく、現在起こっているクラッシュの数にも確実に波及効果を及ぼすはずだ。
Lewis Duncan