主食が足りない―令和のコメ不足:その真相は?
山下 一仁
8月に入ってからコメが品薄になり、消費者の間に不安が広がった。もともと新米が出回る前で在庫が少なくなる時期ではあったが、コメの卸値も上昇。8月としては農林水産省が調査を始めた2006年産以降で最高となるなど、食卓を直撃した。コメ不足の真相はいかに──。
なぜコメが不足したのか
スーパーの棚からコメが消え、値段も上がっている。それなのに農林水産省はコメ不足を認めない。 猛暑で昨年産米に影響が出た。イネの出穂時に高温が続くと、コメの内部に亀裂が生じる “胴割れ粒”やでんぷんの形成が悪く白く濁る“乳白粒“などが生じる。こうしたコメは流通段階で取り除かれるので、精米にしたときの歩留まりが低下する。需要面では、インバウンド消費のほか、コメがパンに比べ安くなったとか、南海トラフ地震への恐怖から備蓄のため買いに走っているとかの説明がされる。 しかし、これらはコメの全体需給のわずかで、足しあげても5%にもならない。本質的な問題は、こうしたわずかな生産や消費の変動がコメの価格や需給に大きな影響を与えることである。それは、食料の需要と供給の特殊性と関係がある。 胃袋は一定なのでたくさん食べられない。生産が増え、それを市場でさばこうとすると、価格を大幅に下げなければならない。豊作貧乏である。逆に不作になると価格は高騰する。他方で、需要が増えたからと言って農業生産を急に増やせない。6月にコメの需要が増加しても生産を増やすためには、翌年9月まで待たなければならない。このため、生産や消費がわずかに増えたり減ったりするだけで、価格は大きく変動する。
農林水産省が隠したい原因
農協(JA)も農林水産省にとっても供給が減って米価が上がるのは望ましい。逆に、食料の需給の特性から、少しでも供給が増えて米価が低下することを恐れて、供給を少なめに誘導する。今回、わずかな需要の増加と供給の減少で米価は大きく上昇した。 指摘されていない事実がある。昨年産米の作況指数は平年作以上の101だった。しかし、作況指数とは一定の面積当たりの収量(“単収”という)の良しあしだから、コメの作付面積が減少していれば、作況指数100でも、生産量は前年を下回る。 2018年から減反(生産調整)を廃止するというのは、当時の安倍晋三首相のフェイクニュースだ。JAと農林水産省は、コメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反=作付面積の減少を進めてきた。昨年産のコメ生産量は前年の670万トンから9万トン減少した。猛暑をうんぬんする前に、昨年産のコメ供給量は減反で減少していたのだ。 1993年の平成のコメ騒動も冷夏が原因と言われているが、根本的な原因は減反である。当時の潜在的な生産量1400万トンを減反で1000万トンに減らしていた。それが不作で783万トンに減少した。しかし、通常年に1400万トン生産して400万トン輸出していれば、冷夏でも1000万トンの生産・消費は可能だった。今は水田の4割を減反して生産量を650万トン程度に抑えている。減反を止めて400万トン輸出していれば、輸出量を若干少なくするだけで国内の不足は生じなかった。同じく過剰農産物を抱えながら、欧州連合(EU)は減反しないで輸出で処理した。EUならコメ騒動は起きなかった。