日銀が「新薬」開発? 金融緩和ではない次の一手
日本銀行が「新薬」開発? というと一体何の話か分かりませんが、日本経済の治療の一つの処方箋になるかもしれません。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストが解説します。 【グラフ】日経平均が好調、バブル最高値も“射程” それって本当?
●欧州との「共同開発」?
日銀の金融政策に対する市場関係者のコンセンサスは「日銀に残された政策手段は少ない、あったとしてもマイナス金利深掘りであるから、それは毒薬の可能性もある。つまり日銀に期待できることはない」と、こんな具合です。ただし、筆者は日銀が「新薬」を開発する可能性に注目しています。
その「新薬」とは、海外、特に欧州との共同開発になりそうです。欧州では10月末に8年の任期を終えた欧州中央銀行(ECB)のドラギ前総裁が、退任前の数か月、財政刺激策を促す発言を繰り返していました。通常、中央銀行総裁が政府の財政政策に言及することは極めて稀ですが、金融緩和策を総動員したECBは「これ以上、金融政策で解決できることはない」と言わんばかりに財政政策の重要性を示す必要があったのです。 ドラギ氏にとって最後のECB理事会となった10月24日の記者会見では「財政政策があれば、金融政策はより短期でゴールにたどり着く」と発言し、また10月29日に催された退任セレモニーでも「低金利が過去と同じような刺激効果を持たなくなっている」「財政政策が金融政策と連携すれば、より少ない副作用で早く物価目標を達成できる」と締めくくっています。 またECB以外では、10月に就任した国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事も「通貨・金融政策だけでは事足りず、財政政策が中心的な役割を果たす必要がある」と発言しています。ここへ来て、景気刺激策としての財政政策の重要性が再認識されつつあるのは明らかです。
●初めて「財政」に言及
そうした中、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は11月5日の記者会見(名古屋)で「財政の拡張時に一緒に(金融緩和を)やるという考えが特にあるわけではない」としつつも「仮に政府が財政政策をさらに活用するなら、財政あるいは金融政策を単独で実施するよりも政策効果は高まる」と、ごく一般論ながら、拡張的財政政策と金融緩和に前向きとも取れる発言をしました。 筆者の知る限り、黒田総裁がこのような発言をしたのは初めてです。これまで黒田総裁は自身の発言が「財政ファイナンス」と認識(報道)されることを警戒して「財政政策は政府が決めるもの」として、具体的言及を避けてきた経緯があります。 財政ファイナンスとは、政府の借金(国債)を日銀が直接引き受ける、すなわち日銀が「打ち出の小槌」の役割を果たすということですから、その仕組みを利用すれば、そのとき政権を握っている与党は無限にお金を使うことができてしまいます。当然のことながら、こうした政府・日銀の癒着は戦時中の反省もあり、財政法によって禁じられています。 このような背景から「財政政策は政府」「金融政策は中央銀行」と役割が分担され、双方が不干渉主義に徹するというのが現代の日本や先進国共通の原則ですが、ドラギ前総裁はこの原則を打破する形で財政刺激策の有効性に言及した格好です。(余談ですが、こうして考えるとトランプ大統領が、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長に利下げを要求したり、議長のポストを解任したりしようとする行為は、禁じ手そのものです)