フリーアナウンサー・神田愛花『羽田-那覇 一日2往復ステイタス修行~スタート編~』
大切な″修行日″
10月某日、夜明け前の朝5時半。私は羽田空港国内線JALファーストクラスラウンジで、ソファに座っていた。燃えたぎる心の炎を冷ますかのように、ビールを流し込む。視線の先には、まだ暗い滑走路で、一際輝いているJAL機があった。今日は、私の来年の社会的地位を左右する、大切な″修行日″なのだ。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~69回)はこちら 私が何が何でも守りたい社会的地位、それはJALの会員ステイタスだ。JAL便に乗るとポイントが貯まり、翌年それに応じたステイタスのランクが付与される。私は11年間、最高ランクを保持し続けてきた。 その道は決して平坦ではない。現に今も、来年度も維持できるかどうかの瀬戸際なのだ。目標ポイントに到達するべく、大晦日までに飛行機に乗りまくらなければならない。よって今日、羽田空港から用事もない沖縄の那覇空港まで、2往復することにした。このような行為を飛行機好き界隈の間では″修行″と呼ぶ。 準備は万全だ。先日購入したばかりのスニーカーを下ろした。計4回の総フライト時間は、9時間40分。その間ほとんど歩かないので、修行と並行して新しいスニーカーを足に馴染ませる日とした。そして、このコラムを書く。ビールをゴクリと飲みながら、我ながら完璧な時間の使い方に誇り高い気持ちになった。 天敵は、機内食だ。より多くのポイントを貯めるため、全便ファーストクラスにした。毎回お皿に盛られた美味しい食事が提供される。有り難いが、座りっぱなしなのに4回も食事をしたら、確実に太る。(もったいないけど極力我慢!)と心に誓った。さぁ! いざ出陣だ。 まずは6時半発の那覇行きの始発便だ。周りはリゾート風ワンピースや半袖&短パンの、テンション高めの人たちばかり。だが、私は修行僧。孤高の精神が揺らがないよう、彼らを視界から外し、一線を引くことにした。 着席するや否や、客室乗務員さんが機内食について聞いてきた。この便の食事は和食。和食はあまり好きじゃない。迷いなくお断りでき、安堵した。 ふと隣人のモニター画面を見てハッとした。(この人も修行僧だ!)と。JALの個人用モニターでは、機体の尾翼と前輪付近にある2ヵ所の機外カメラのリアルタイム映像を見ることができる。私のこれまでの人間観察データから推測するに、修行僧は飛行機好きでフライト中にこの映像を見る人が多い。この時すでに私の個人用モニターは、尾翼からの映像に設定していた。だが本音では、(両方見たい!)。だから普段は、隣人がどちらかの機外カメラ映像を見ていたら(ラッキー!)で、自分のモニターにはもう一方の映像を映す。こうすると、盗み見しながら両方見られるからだ。 ◆″修行″でも機内と空港を満喫 お隣さんは、そんな私そのものだった。着席すると、前輪カメラの映像を見始めたのだ。試しに私のモニターを、別の画面に切り替えてみた。するとお隣さんはすぐに、さっきまで私が見ていた尾翼からの映像に切り替えたのだ。 一方しか見られないなら尾翼からを選ぶ、というこの行動。まさに私と同じ! よって隣人は、修行僧と断定できた。 そんなことを考えていたらいつの間にか眠ってしまい、起きたら奄美大島上空だった。高度が下がると、鮮やかなエメラルドグリーンの海が窓枠いっぱいに見えた。(沖縄まで来ちゃった!)とワクワクした。 時刻は9時。無事着陸し、1便目の修行が終了。次は50分後の羽田行きだ。焦りそうだが、朝のうちに全便チェックインを済ませておいたので、外に出る必要はない。タラップの窓から差し込む強い日差しが、私の頬に刺さり、(やっぱ沖縄は暑いなぁ!!)と、沖縄にいることを楽しんだ。 そして那覇空港にしかない国内線の免税店へ。欲しいものも、(またあとで来られるしなぁ)と棚に戻し、熟考することに。さらに、ブルーシールアイスクリームでは、大好きなミントチョコを発見。(これもあとで食べよう!)と、お楽しみは数時間後に取っておくことにした。 そんなこんなで、2便目の搭乗開始時刻になった。まだ始まったばかりの、私の羽田-那覇一日2往復修行。空の上で起こるさまざまな出来事を前に、次回、なんと初めて、ステイタスにこだわる意味を見失ってしまう!? 乞うご期待。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年12月6日号より イラスト・文:神田愛花
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