「夫のスペック=女性の価値」? アルコール依存症のハイスペ夫を必死で支え…不妊治療中の“勝ち組”妻が陥った共依存の闇
■「アルコール依存当事者の妻には特に多い」共依存、“夫のスペック=女性の価値”との思い込み
一方、主人公である妻は夫と共依存の関係にあった。共依存とは、特定の人との関係を自分の価値としている状態で、アルコール依存当事者の妻には特に多いとされる。 「『私がしっかりしなければ』と夫の飲酒問題を必死で支えたり、失敗の尻拭いをしたとしても、問題は悪化するばかり──というのがアルコール依存症と共依存になっている人の典型例のようです。その背景にあるのが“夫のスペック=女性としての価値”という、これまた昭和のようで現代も根強く残る価値観。このストーリーの主人公も、ハイスペ男性と結婚したことだけが自分の価値だと思い込んでいました」 ストーリーでは、彼女が母親から「何の取り柄もない子」と言われて育ったことも描かれる。親の声がけが「価値基準を自分ではなく他者に置く」という共依存特有の自己肯定感の低さにつながっていることを示唆する描写だ。 「終わりなき不妊治療にのめり込むのも、彼女の場合は世の中に規定された“幸せの基準”に囚われていたからでした。妊活のために仕事を辞めたけれど、子どもができない自分は何もかもが宙ぶらりん。女性の活躍が喧伝される今、『世間に対して何も役に立てていない』という申し訳なさを抱えて生きている女性は決して少なくないと思います」 自己肯定とは他者と比較することなく、自分をかけがえのない大切な存在として認識することを指す。主人公が求める「母親としての確固たる立ち位置」、夫が固執する「仕事を完璧にこなす有能な社員」、そのどれも手に入れられなくても、ありのままのお互いを愛していることを再確認した時、夫婦は再生の道を歩み出す。 「この夫婦は手放したものもたくさんありますし、世間一般から見たら決してハッピーな終わり方ではありません。不完全さを抱えながら、それでも生きていくというニュアンスの結末にしたのは、依存症は完治ができないと言われ、中には一生向き合っていかないといけない人もいるからです。ただ、誰しも完璧な人はいないですし、一度のつまずきで人生が終わると思ってほしくない。また失敗した人でも立ち直りを見守り、受け入れる寛容な社会であってほしいという願いもオムニバス漫画を通して伝えたかったことでした」 昨今、ギャンブル依存を背景とした横領事件など、重度の依存症問題が指摘されている。「自分はお酒もギャンブルもやらない。だから絶対に依存症にはならない」と言う人もいるが、「依存の対象は身近にたくさんあり、自分は無縁だと思考停止している人が実は一番危険」とのこと。お酒やギャンブルに限らずとも、SNSやフリマアプリなど、現代ではすぐ手の届くところに依存のきっかけは存在する。「誰もが陥るリスクがある」ということを知っておくだけでも、いざというときの助けになりそうだ。 (文:児玉澄子)