ヤングケアラーだった町亞聖が見た「ディア・ファミリー」 人生は長さではなく〝深さ〟 命の限りと向き合う
あと10年待ってください
母の介護やがんをきっかけに30年近く医療の取材を続けていますが、映画のモデルになった筒井さんのように<医療の未来>を切り開いた患者さんや家族に私も出会ってきました。現在がん治療では数多くの抗がん剤が使われていますが、2000年初めの医療現場では欧米で当たり前に使用されているのに、日本では薬の承認に時間がかかってしまい、必要とする患者さんが使えないという<ドラッグ・ラグ>の問題が起きていました。「承認されていないのだから仕方がない」。医師が口にするのは諦めの言葉ばかり。そんなドラッグ・ラグの問題を解決に導いたのは完治しないがんを抱えながらも声を上げた患者さんたちでした。NPO法人「がんと共に生きる会」の代表だった大腸がんの佐藤均さんは、日本での承認を求めてまさに命を懸けて闘いました。映画の中で光石研さん演じる石黒医師が、宣政さんが完成させたIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルを「素人が作ったものは使えない」と突っぱねる場面がありますが、私が佐藤さんの密着取材をしている時にも、ある大学病院の院長が佐藤さんに向かって「あと10年待ってください」と言い放ったことがありました。佐藤さんの余命が短いということが分かっているのに・・・・・・。
ドラッグ・ラグの解消を求める活動
もう1人、大学在学中に卵巣がんが見つかった20代のあやちゃんも、佳美のように自分が生きている間には薬が承認されないことを分かっていましたが、街頭に立って署名を集めて全国の患者の想(おも)いを国に届けました。このドラッグ・ラグの解消を求める活動が、2006年のがん対策基本法の成立にもつながったことはぜひみなさんにも知っておいていただきたい出来事です。残念ながら2人にはもう会うことができませんが、同じ病気を抱える患者さんのためにという切実な願いは確実に実を結んでいます。そして「がんと共に生きる会」も、あやちゃんと共に歩んでいた卵巣がん体験者の会「スマイリー」も今も活動を続けています。