ヤングケアラーだった町亞聖が見た「ディア・ファミリー」 人生は長さではなく〝深さ〟 命の限りと向き合う
開発まで何十年もかかると言われる中で娘のために人工心臓の開発に挑み、一度は挫折しながらも日本初のIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテル実用化に成功した父親と家族の物語「ディア・ファミリー」を妹と観(み)てきました。妹と2人で映画を観るのは本当に久しぶりでしたが、実は私たち姉妹も20代の時に家族の<命の限り>と向き合った経験があります。私の母は40歳という若さでくも膜下出血で倒れ、右半身まひと言語障害という重度障害を負い車椅子の生活を送っていました。今から30年以上前のこと。私は高校3年、弟は中学3年、妹はまだ小学6年で、最近注目されるようになったヤングケアラーの当事者になりました。 【写真】 大泉洋主演「ディア・ファミリー」 松村北斗「後に残る感動作」でも舞台あいさつは爆笑の渦 さらにその母に末期の子宮頸(けい)がんが見つかり闘病していた時のことが走馬灯のように蘇(よみがえ)りました。川栄李奈さん演じる姉の奈美が妹の方を見ずにお茶わんを洗いながら涙を流すシーンがありましたが「お母さんの前では絶対に泣かない」と18歳の時から妹弟の母親代わりとして歯を食いしばって頑張っていた長女の自分の姿に重なりました。
守りたい人がいるからこそ強くなれる
心臓病を患う次女佳美のために「俺が諦めたら終わり」と果てしない闘いに挑む父親の宣政も、「私の命は大丈夫」と言えた佳美も精神的に強靭(きょうじん)な人物に見えるかもしれませんが、人間は初めから強いわけではありません。守りたい人がいるからこそ強くなれますし、強くならざるを得ないということを私は知っています。
人生は長さではなく深さ
当時(1990年代後半)は在宅医療の体制が全く整っていませんでしたが、私は母を住み慣れた我が家で看取(みと)ると決めました。これが母と交わす最期の言葉になるかもしれないと思いながら過ごした日々は、当たり前の日常がどれだけ尊いかをかみしめた時間でもありました。障害もあったために寝たきりになりましたが、いつも笑顔で「感謝だわ」という言葉を口にできた母が、どんな状態であっても人は生きている意味があるということを教えてくれました。「人生は長さではなく深さ」。これは母の命の限りが分かった時に弟が言ってくれた言葉です。自分には間に合わないことを知っていながら他の心臓病の患者さんを救うために、父親にIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルの開発を続けてほしいと願う佳美の姿を見てこの言葉を思い出しました。