羽生の10日間安静怪我の背景に真・4回転時代のリスク
中庭氏の説明によると、多種類の4回転時代になり、それらの技術習得のため、練習量が増し、そこでの肉体へのダメージが増えているという。ただ、各陣営はコンディションを維持するため4回転の練習量には制限を加えているともいうが、曲を流しプログラムを通しで行う試合想定のトレーニングでは、4回転の成否がポイントになるため、集中して行うことで、怪我を負う可能性があるという。 「4回転ジャンプに耐えうる肉体作りが必須となり、オフアイスのトレーニングが見直され重要視されています。また故障のリスクを減らすためのランディング技術の向上も重要です。世界レベルで4回転ジャンパーは肉体強化に取り組んでいますが、いざシーズンが始まり、しかも、過酷といえるほどタイトなスケジュールで競技会が続きますから、コンディションを維持することは大変で怪我のリスクは減らないのです」 実際、羽生も、一昨年、練習中に右足首をねんざして約2週間休んだ。今年9月には右膝も痛めている。4回転の申し子と言われているボーヤン・ジー(20、中国)は、昨シーズンは故障と付き合いながらの戦いとなり満足のいく結果を残せなかった。5種類の4回転を操るネイサン・チェン(18、米国)も故障で1年間を棒にふった過去があり、なおさら肉体強化と、そのケアには神経質になっているという。それでも疲労が蓄積すると、4回転の成功の精度が落ちて、羽生のように故障につながるリスクが増す。
「羽生選手は、今季初めて取り組んだルッツで怪我をしてしまったので、またやってしまうのではないか、という精神的な不安が残る可能性があります。しかし、プログラムに複数の4回転を組み込まないことには五輪では勝てません。そのためには4回転を跳ぶための万全な状態にコンディションを仕上げて五輪を迎えなければなりません。体のどこかに不安があれば、それが演技のミスにつながります。羽生選手だけでなく、平昌五輪まで、体調とフィジカルのコンディションをベストの状態に仕上げることが勝敗を分けるのではないでしょうか」(中庭氏) つまりコンディション調整とリスク回避の上手い選手がメダルに近づくのだ。 一方で、羽生の怪我は、タイトなスケジュールを回避できるメリットがあるのではないか、という「怪我の功名説」も流れている。だが、「試合勘が鈍る」という不安も残る。 派手に見える真・4回転時代の背景に潜むに怪我のリスクに、各選手はどう対策を練るのか。平昌五輪に向けて、目に見えない、もうひとつの戦いが始まっている。