地球外生命は本当にいるのか?火星の地下、衛星タイタンにあるエタンとメタンの湖、金星上空50kmに広がる硫酸の雲も
■ 地球外生命が存在するための条件 小林:はい。そういう点では、タイタンは非常に興味深い星です。 タイタンの地表大気圧は約1.5気圧で、温度は約-180℃。水が凍る温度は、1気圧下で0℃です。タイタンの地表は、水が液体で存在できるような環境ではありません。 けれども、メタンやエタンの凝固点は1気圧下、約-180℃。太陽から離れた寒い場所ではありますが、タイタンの地表ではメタンやエタンは、液体として存在できるのです。 また、タイタンの大気の構成成分の大半を占めるのは、窒素とメタンです。これが原始地球と非常によく似た組成であること、さらに、タイタンにはこれまで別の星ではあまり見つかっていない有機物があるということも、タイタンに生命が存在しているのではないかという期待を増す要因となっています。 ──となると、生命存在のためには液体の水でなく、液体の有機物があればいい、ということになるのですか。 小林:有機物でなくても、液体であれば何でもいいと思います。 まず、なぜこれまで、液体の水が生命の存在に必要不可欠と考えられてきたかというと、生命の代謝や複製をするためには流動性のある液体がその細胞内を循環しなければ難しいだろう、という考えがあったからです。 液体と言われて、私たちが一番初めに思い浮かべるのは、摂氏数10℃程度で液体として存在できる水やアルコール類です。そこで、これまでは「水」をターゲットとして生命探査が主として行われてきました。 ただ、「摂氏数10℃」という条件を取っ払って、ずっと低い温度で液体となるようなものを考えると、先ほど出てきたメタンやエタンに加えて、窒素なども候補になります。 その中で、私が一番面白いなと感じているのは硫酸です。 ──硫酸ですか?
■ 金星の上空50kmは「ちょうどいい」温度 小林:金星には、硫酸が液滴として存在していることがわかっています。金星は太陽に近い位置にあるため、地表の温度は約460℃に達します。 先ほど、火星は表面温度が低すぎるため、地下の暖かいところに生命が存在しているのではないかというESAの説をお話ししました。 一方、金星は地表部も地下も暑すぎます。生命が存在しているとはとても思えません。そこで、逆に上空の低温の大気に注目してみると、高度50km程度の金星の大気は、私たちにとって「ちょうどいい」温度です。 しかも、金星には高度50kmのあたりに雲があることが知られています。その雲の正体こそ、硫酸の液滴です。地球生命の多くは、硫酸をかけられたらひとたまりもありません。でも、硫酸や塩酸、過塩素酸のような強い酸を好む地球生命がいることも事実です。 硫酸の液滴がある金星の上空に生命がいるのではないかという議論が今、脚光を浴びています。 ──アストロバイオロジーの研究の過程で、ウイルスのような地球外生命が地球に持ち込まれ、人に感染する可能性はありますか。 小林:人類をはじめとする地球生命のほとんどがタンパク質を触媒として代謝を行い、DNAを用いて複製をするという生命システムを採用しています。 地球生命に対して感染力のあるウイルスは、地球生命と同じ生命システムを有していなければなりません。地球生命とは全く異なるタイプの生命システムを持つような地球外生命であれば、地球生命に感染し、滅亡させることはまずないでしょう。 けれども、ここで「パンスペルミア説」を考えると、恐ろしい予測が導き出されます。