月9「海のはじまり」の脚本家・生方美久の次回作は学園ドラマ!?
そもそもTikTokを観る習慣がないので、アンディを探しにいったときは目も耳もチカチカガヤガヤして単純にしんどかった。アンディより先に自分の老いと直面した。解散したときに勝る悲しみ。悲しみの果てに見つけた、アンディで踊る若者。たしかに踊ってた。『すごい速さ』という曲に簡単な振り付けをしている。自分の青春がまったくの別角度で消費されている。それが嫌というわけでも否定したいわけでもなかった。ただただ、時代が変われば、作品に触れる人の年齢や感覚も変わり、同じ人間が同じ作品をどう見るかさえ変わっていくいうことを実感した。 とても困る質問の一つに「一番すきな映画は何ですか?」というのがある。「その時の精神状態で変わります」というのが正直な答えだが、大人が仕事をするというのは、正直ではいられないということだ。なので、「映画をすきになったきっかけは『リリイ・シュシュのすべて』です」と若干質問意図をずらした答えをしている。2001年公開の岩井俊二監督作である。高校二年生のとき初めてこの映画を観た。あまりにもぶっ刺さってしまった。17歳のわたしの脳内はリリイや雄一、津田詩織と久野洋子でいっぱいになってしまった。チラッと前述した通り、学校という閉鎖空間に嫌気がさしていた時期で、音楽が逃げ場だった自分には、この救いようのない物語が圧倒的に希望だった。当時すきだった人にDVDを貸し、返って来た感想が「重いね」だけで、「は?」と思ったのも良い(良くない)思い出です。すきな男の子に薦める映画ではない。 いま観てもまったく色褪せていない素晴らしい映画。でも、あのぶっ刺さりようは、初めて観たあのとき、17歳で、学校がきらいで、音楽が逃げ場で、他のたくさんの映画にまだ触れる前だったからだろう。思い返せば、自分が大人になってからハマった学園ドラマはまだないかもしれない。「ごくせん」「野ブタ」「花男」「イケパラ」「Q10」なんかにこんなにも想いを馳せてしまうのは、きっとそれらを観たとき、自分も小学生~高校生だったからだ。若者の基準と一緒だ。どんな環境にいるどんな人が観るかで、作品の印象は変わる。 とはいえ30代の今聴いても、アンディの『teen’s』はしっかりと刺さる。そういうこともある。10代を思い返して刺さったり、今もそうだなぁと直接刺さったり。刺さったものをヒュッと抜いたとて、そこにできた穴は別の何かで埋まるわけじゃない。大人になってもトラウマは消えないのといっしょ。心の傷は一生癒えないのといっしょ。若者時代に確実に刺さった音楽も映画も一生ものだ。 学園ドラマがつくりたい。今TikTokで踊っている若者たちに刺さるテレビドラマがつくりたい。その子たちが31歳とかになったとき、「令和初期にやってた○○って連ドラがわたしたちの青春」とかなんとか言って、新たな若者たちから煙たがられてほしい。 生方美久(うぶかたみく) 1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」の全話脚本を担当。 TEXT=生方美久
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