名脇役・小日向文世 ── ブレイク前は給料前借りして食いつないだ過去
1日からdビデオで独占配信しているオリジナルドラマ「プリズン・オフィサー」に主演する、俳優の小日向文世。普段は真面目で気弱だが、あるきっかけで“極道の神さま“と呼ばれる男の霊が憑依してしまう刑務官を、持ち前の柔和な表情と『アウトレイジ』シリーズで披露したイカツイ芝居で演じ切る。名脇役としての印象が強い小日向が、連続ドラマの主演を務めるのは「犬飼さん家の犬」以来実に5年ぶり。「僕でいいのかな?」と大役抜擢に恐縮する小日向が、給料の前借りで食いつないでいた「HERO」ブレイク前の極貧生活を語った。
「僕としては脇役の方が気が楽」
小日向の名脇役ぶりが広く認知されたのは、2001年放送の「HERO」(フジテレビ)での末次事務官役から。主演として映画やドラマも制作されることもあるが、やはり“脇役”として映画、ドラマに欠かせない存在として、その地位を確立させている。 「主演になるとセリフの一語一句にまでしつこくこだわるし、脇役の時には気にならなかったような事が気になる。主演が成立しないとすべてがダメになってしまうような気さえする」と主演と助演の違いを説明しながら、「背負うものが大きくなるのは、それだけやり甲斐もあるということ。だけど僕としては、脇役の方が気が楽かな」と、目じりを下げる。 映像の世界に本格的に飛び込んだのは、42歳の頃。約20年間活動してきた劇団が解散し、仕事のない日々を過ごすことになる。しかも前年には父親になったばかりだった。そんな状況にもかかわらず、小日向には焦りや不安はなかったという。 「映像の世界では新人ですから、暇になるのは当然。もう一回振り出しに戻された感じ。貯金もなかったけれど『さあ、これから映像の世界で生きていくぞ』という希望はあった。だからこそ、どんな小さな役でも新鮮に引き受けることが出来た」と、振り返る。
給料を前借りして家族を支えたことも
舞台とはまた違った刺激も、役者魂を震わせた。「たとえどんな端役でも、一言セリフを言うだけでカメラがパッと僕を狙ってくれるわけです。舞台だとそうはいかない。映像では視聴者が必ず観てくれる。それが凄く気持ち良かった」と、映像作品ならではの特徴に勝機を見出した。 看板俳優として劇団を引っ張って来た自負もあった。「来た仕事すべてに手応えもあった。なぜそこまで自信があったのかというと、19年間、舞台をやり続けて来たという土台があるし、だからこそ期待に応えられるだけの芝居が出来ると思っていたから」と、チャンスをひたすら待ち続けていた。 その一方で、大黒柱として家庭生活を支えなければならない。「お金が必要になると『給料の前借りお願いします』と事務所に電話しました。社長が理解のある方で、仕事が入るとそこから返却していった感じで」と、給料の前借で命を繋ぐことに。文句ひとつ言わずに付いてきた妻にも救われた。 「後々『どうしてあの時に働けと言わなかったの?』と聞いたら『いつか仕事が来ると思っていたから』と言ってくれました。女房も劇団上がりなので、ひもじくても耐えてくれた。近所からは『昼間から公園にいるお宅のダンナ、一体何をやっているの?』と思われたりして、辛い部分もあったと思う」と、妻の気苦労を思いやる。