名脇役・小日向文世 ── ブレイク前は給料前借りして食いつないだ過去
苦しい時期を支えてくれた妻に感謝
劇団解散から5年後。「HERO」で小日向は技巧者としての才能を思う存分に発揮。47歳にして再びスポットライトの下に立った。「それからありがたいことに連続ドラマのお話を頂くようになって、今に至ります。そういった意味で、僕は運がよかった」とシミジミ。「女房も『もう前借りをしなくてよくなったね』とホッとしていたし、『お金の事は考えずに、たまにはゆっくりお寿司屋さんで飲みたいね』なんて話していました」と、当時苦楽を共にした妻が喜んでくれたと嬉しそう。出がけの際のキスは欠かさないそうだが「一度決めたことはやらないと気が済まない性格だからなのかなぁ」と照れ笑い。 今年の1月には61歳の誕生日を迎えたが「受け入れがたいし、未だに自分が60代だとはイメージ出来ないですね。たぶん気分的に30代後半だからじゃないかな。そんな事を言いながらもあと10年経ったら70歳だからね。うーん」と実年齢と精神年齢のギャップに苦悩中。それでも「仕事はおのずと減ってくるでしょう。おじいちゃんばかりが出演するドラマなんて今まで観たことがないし、連続ドラマも若い人ばかり。出る幕がないなと感じる時もある。でもそれは仕方がないこと」と、現実問題としてシビアに見つめている。だが自ら退くことは、ありえない。 「引退は考えていません。『また出て来たよ、セリフもろくに覚えられないくせにさ』とか陰で言われながらでも、俳優としてやっていきたい。だってほかにやることがないですからね。そのためにはなるべく仕事が来るように、これからも頑張っていきたいですね」と目の奥をキラリと光らせた。 (取材・文/石井隼人) ■小日向文世(こひなた・ふみよ)1954年1月23日、北海道出身。2月1日からdビデオで独占配信しているオリジナルドラマ「プリズン・オフィサー」()は、刑務所を舞台に描かれる刑務官と4人の死刑囚の心揺さぶる人間ドラマ。小日向演じる真面目で気弱なごく平凡な刑務官・平凡太が、40年前に死亡した“極道の神さま”と呼ばれた男に憑依され、刑務官としての職務を越え、死刑囚と対峙していく様を描く。小日向は「やりながらずっと『僕でいいのかな?』と。極道の神様に豹変するところはいつも照れ臭かったですよ。強い人や怖い人って、僕とは遠い存在ですから、撮影中は自分の中の自分が『なんかドスを効かせちゃってさ、嘘つけコノ!』って言っていました」と照れくさそうに話している。