他人に嫌われたくないと思う自分を変えるため「周囲を気にしない」と決めた48歳男性に、鴻上尚史が「否定形は演じられない」と伝えた真意
「異常なくらい人に嫌われることが怖い」という48歳男性。それには、子ども時代に親から肯定されたことがなかったことが関係しているというが、男性は親を恨むのではなく、自分自身を変えたいと話す。そんな男性に、鴻上尚史が贈った「人間は否定形を実行できない」というアドバイスの真意とは。 【相談221】人に嫌われるのが怖くて周りに合わせてしまいます。そんな自分が嫌なのですが、変わるためのアドバイスをください(48歳 男性 なるま) いつも自分にも通じるものがあるので、相談を読んでいます。私の悩みは異常なくらいに人から嫌われるのを恐れてしまうことです。 そのせいでとにかく人に嫌われないよう周りに合わせることを1番に考えてきましたが、それだと結局はいいように人から使われるし、そんな私を嫌う人がいると42歳で気がつきました。恐らくですが、簡単に言うと子供時代に親から肯定された経験がないからだと分析してます。 でも、もう終わったことなので親を恨んで立ち止まることはしません。ここから変えたいのです。皆から好かれることはまず無理だから周囲を気にしない。 自分の世界に入る。 頭では色々試行錯誤してますが、やはりこの嫌われないようにしてきた生き方がこびりついているので、どうしても気にしてしまうのです。鴻上さん、変われる方法を是非アドバイス下さい。
【鴻上さんの答え】 なるまさん。一歩、前進しましたね! 「嫌われないよう周りに合わせることを一番に考えて」きたけれど、「それだと結局はいいように人から使われる」し「そんな私を嫌う人がいる」ということに気付いたんですね! そして、その原因が、「子供時代に親から肯定された経験がないからだと分析」したんですね! すごいじゃないですか! さらにすごいのは、「もう終わったことなので親を恨んで立ち止まることはしません」という考え方です。『ほがらか人生相談』に送られてくる相談では、親をずっと恨んでいる人もたくさんいます。それはしょうがないことですが、過去しか見てないと、未来は広がりません。 なるまさんは、過去を気にしながら、前を向こうとしているんですね。それは素晴らしいことです! 僕は本気で言ってますよ。42歳で気付けて、本当に良かったと思います! なるまさんは、今48歳ですから、6年間、「嫌われないようにしよう」と思うことをやめたんですね。 でも、なかなかうまくいかないんですね。 「皆から好かれることはまず無理だから」というのは、素敵な考え方ですね。 私達は、「皆から好かれる」なんてことはないですね。 なるまさんのことを好きな人もいれば、嫌いな人もいる。 僕も、先月の相談で「共同親権」について自分の考えていることを書いたら、賛成してくれる人と反対する人の言葉が僕のSNSに殺到しましたね。反対する人は、まあ、誹謗・中傷を書いてくる人が多かったですね。でも、だからと言って、自分の意見を変えるわけにはいきませんからね。 さて、なるまさん。 「人間は否定形を実行できない」という言葉、ご存じですか? 演劇界では、知る人ぞ知る言葉なんですが、「否定形は演じられない」という言い方になります。 例えば、目の前に「あなた」がいたとして、「あなたと話さない」という演技は実行できないのです。 やってみればすぐに分かりますが、演出家から「『あなたと話さない』という演技やって」と言われたら、結局、あなたの周りをウロウロしながら「話さないぞ」「絶対に話さないぞ」なんてブツブツ言うだけです。変な人ですね。 「演じられない否定形」を、「演じられる肯定形」にする必要があるのです。 例えば、「あなたと話さない。だから、この部屋を出て行く」とか「あなたと話さない。だから、テレビを見る」とか「あなたと話さない。だから、他の友達と話す」というふうに、否定形を、実行できる肯定形に変えないと演じられないのです。 「絶対にピンクのワニを想像しないで下さい」なんて否定形を頭の中で実行するのも無理ですね。「絶対にピンクのワニを想像してはいけない!」と言われた瞬間に、あなたの頭にはピンクのワニがどどーんと現れるでしょう。