藤田菜七子騎手（撮影・奈良武）

藤田菜七子騎手が引退した。16年ぶりのJRA女性騎手としての奮闘を見てきた者として、今回の突然の引退は残念な思いを禁じ得ない。 顧みるべきは昨今、通信機器不正使用による若手騎手の処分が続いている点だ。今週は藤田騎手だけでなく、永野、小林勝騎手も騎乗停止となった。騎手に対して周知徹底され、多くの先輩たちが守ってきたルールに対し、違反者が続出していることは悲しい。 中央競馬などの公営競技はギャンブルという側面を持つゆえに、反社会的勢力の介入や俗にいう八百長行為の疑いを寄せつけてはならない。そのため、外部との接触を断って公正を確保する目的で全ての騎手は騎乗日の前日午後9時から調整ルームに入室する義務があり、昨年6月以降はスマートフォンなどの通信機器を持ち込むことが禁じられている。 今の時代、スマホによるコミュニケーションは世代を問わず当たり前に行われている。騎手も調整ルームに入室する前は、自由なやりとりが許されている。 今の若手騎手にはこうした取り決めに、違和感を覚えている者がいるのかもしれない。小さいときから身近にある生活必需品。また外部と通信する内容も、大前提である公正確保に何ら支障がないものならば、罪の意識が希薄になって不思議ではない。 一つ言えることは、納得できようができまいが、全騎手が公正競馬の確保に努力している以上、ばれなければいいというものでは断じてないということだ。もし他に規制する以外で公正性を確実に担保できるやり方があるのならば、当事者たちで真剣に時代に合ったルールを模索したらいいと思う。 また、JRAもハード面を含む再発防止策を本気で作り直すべきだ。11日の説明の際、電波を使えなくするいわゆる通信ジャミングの設置については「検討のひとつではあるが、近隣住民への影響や開催業務への影響を検討する必要がある」（松窪審判部長）として積極的な姿勢を示さなかったが、同種の施設はボートレースびわこ、笠松競馬などですでに導入されている。ジョッキーとの信頼に根ざして事を進める段階は、残念ながら過ぎてしまったといえる。（中央競馬担当・内海裕介）