<夢への軌跡・23年センバツ>福井・敦賀気比 実戦不足、重圧越え 北信越準優勝の悔しさバネに鍛錬 /福井
今春センバツ出場で、敦賀気比は新型コロナ禍での中止以降、5季連続の甲子園となった。全国で同校と大阪桐蔭だけの快挙だ。それほどに困難な連続出場。特に夏春連続が難しい一因は、準備期間の短さにある。 例年7月に行われる夏の地方大会で敗退したチームは、その時点で新チームが始動する。一方、甲子園で上位進出すると代替わりは8月中旬~下旬。センバツにつながる秋季県大会は9月上旬~中旬には始まるため、他校の半分以下の活動期間で臨むことになる。 昨夏の甲子園で3回戦進出した敦賀気比の新チーム始動は昨年8月18日。練習試合も数をこなせず、秋季県大会も1、2回戦が相手選手の新型コロナ感染で不戦勝だった。実戦経験が足りないまま迎えた9月17日の初戦の相手は、春夏計12回甲子園出場の強豪、工大福井。チームとしての形もまだつかめず、公式戦で勝利した自信も得られていない。県内では「勝って当たり前」の重圧もある中、選手は不安を抱えていた。 ただ、試合は終わってみれば8―0の七回コールド勝ち。敦賀気比は5安打ながら、相手の12四死球に乗じた。選手は「四球に助けられた」と謙虚に口をそろえるが、勝因の一つは無失策だった守備力だ。柏木勇樹捕手(2年)は「国本開コーチから『秋は他校も打力が低いから、守り切れば勝てる』と言われていた」と話し、失点を防ぐことに意識を集中していたという。 自身も同校で2度甲子園に出場している国本コーチは「3年前に北信越で優勝したあたりから、センバツに必要な水準が経験上つかめてきた」と説明する。短い期間で最低限やるべきことが共有できることは常連校の強みで、秋季大会を通じてチームの失策はわずか1。エース辻晶太投手(同)も四死球は1試合平均3個程度と、無駄な走者を出さなかった。 センバツに向け、最大の山場となったのは、10月16日、新潟県長岡市悠久山球場での北信越大会準々決勝の中越(新潟)戦だ。七回終了時点で5点を追う苦しい展開だったが、八回に6得点して逆転し、逃げ切った。 この試合、中越は6失策。一見、相手に救われたようだが、実態は違う。東哲平監督は「芝が硬く、打球が変化しやすい」など守備が難しいグラウンド状況を見抜いていた。五回終了後のグラウンド整備明けの円陣などで「強いゴロを打てばエラーもある」と繰り返し指示。終盤にナインが実行できはじめたことで展開が変わり、相手の焦りも誘った。 接戦で地力が垣間見えた一方、東監督は「もっと早く徹底できれば展開は楽になった」と、実戦不足は解消し切れていないとみている。東監督は試合経験を積む意義について、「チームのパターンやその中での役割をつかむことで試合の流れを読めるようになる。監督の指示や助言の真意もどこかで理解できる時が来る」と説明。その部分が不足しながらも甲子園にたどり着いたチームは、大きな伸びしろを残している。 厳しい冬場のトレーニングを続けるナインが胸に刻むのは、北信越大会決勝で北陸(福井)に喫した敗戦。辻投手は「あれから練習の雰囲気は引き締まった。負けたくはなかったが、敗戦自体は悪いことではなかったと思っている」と強い負けん気を口にする。甲子園切符を手にしても、「悔しさ」を感じられることは強豪ならではの強み。高い個の能力をどれだけチーム力につなげられるか、チームの挑戦が続いている。【高橋隆輔】