[SCS推進チーム]今季2冠!千葉ジェッツにあったスポーツサイエンスを生かしたトレーニング術【Bリーグ】
中でもアイラ・ブラウンの例は興味深い。今季41歳という年齢ながら、レギュラーシーズンで出場しなかったのは4試合だけ(56試合、平均23分16秒出場)。その背景には、他の選手と同様にトレーニングを積んだプロセスがある。吉田氏は「彼は元々筋力が高いんです。そして得意な動きもある一方で苦手な動きがありました。今季チームに加わって最初のフェーズでは、早く力を出すハイパワーのエクササイズをけっこうやりました。それまでそういうトレーニングはあまりやっていなかったそうです。こなしていく中で筋肉をうまく使ったり、うまく出力できたりするようになり、さらに運動量を確保していくと体が適応し、疲れにくくなるという変化が見られました」と収穫を説明している。千葉Jは、昨シーズンは天皇杯を制覇し、BリーグではB1リーグ戦53勝7敗で史上最高勝率(88.7%)を残し、「日本生命 B.LEAGUE FINALS 2022-23」に進出し準優勝に。今季は、日本のクラブとして初のEASL(東アジアスーパーリーグ)制覇を果たすと天皇杯を連覇して2冠。加えて「日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24」のセミファイナルに駒を進めている(編集時点)。リーグの中で、これだけの試合数をこなしているチームはないと言ってもいい。試合が増えていけば、避けることのできない故障も発生してしまう。その中で、好成績を残せているのは、勝てる戦力をキープし続けられているから。吉田氏の貢献度は小さくないだろう。「プロセスは選手それぞれで、ベストパフォーマンスを出す計算式は、選手によって変わってきます。筋力が高い選手もいれば、パワーやスピードが秀でている選手もいます。結論としては体重比に対してのパワー値が高い人がいいのですが、ちゃんとした動きができないと体への負担は大きくなってしまうのです」。
SCS推進チームを通して目論む、リーグ全体、日本バスケ界全体のレベルアップ
スポーツサイエンスを生かしたトレーニングで、千葉Jの選手たちのパフォーマンスを高めている吉田氏。SCS推進チームでは、どのような取り組みを行っているのか? 「まずは選手たちの現状を知るためにも、Bリーグ全体でパフォーマンステストを行って基準となる数字を作りたいという話をしています。その上でセーフティとコンディションの部分に着手したいと考えています。SCS推進チームでは障害統計を取っていますが、予防するためには何をすべきなのか?もちろん、筋力は大切で、正しいトレーニングをする必要があると思います。また回復するための休養も不可欠となります。将来的には科学的なプログラムを練習にも取り入れていくということをリーグ全体でやっていければいいなと考えています」。 自身のクラブと同様に、ベースとして筋力を上げることがカギになる。その考えは、学生においても同様だ。「成長期までとそれ以降でのアプローチを変える必要はあると思います。成長期以降ということでは、バスケットボールのスキルを磨く練習は多く取り入れられていると思いますが、スキルはフィジカルという土台があってこそのもので、フィジカルが弱いがためにプレーに制限がかかるケースがとても多いです。筋力があれば、同じ動きをする場合でもクオリティーは変わります。より高いレベルを目指すならば効率的かつ正しい動き方が大切ですし、最終的には筋力を上げてパフォーマンスを高める必要があります。高いレベルの選手たちは、そこをしっかりやっています。いかに効率的に行うかに目を向けることで、息の長い選手になることは間違いありません。日本の現状を考えると、筋力や栄養、疲労回復など体作りへのフォーカスが不足していると感じています。選手だけでなく、指導者の方にもうまく情報を出していくことができれば日本バスケ界の発展につながると思います。そこを頑張りたいですね」。 近年、好成績を維持している千葉Jを支える吉田氏のスポーツサイエンスを生かしたコンディショニング術は、今後、SCS推進チームを通してリーグ全体で共有されていく。結果としてリーグ全体の底上げとなることはまちがいない。選手の故障が減り、選手寿命も延びる。そうした選手たちが、よりベストに近いパフォーマンスを日々のゲームで発揮する。さらにコンペティティブなBリーグを見られることにつながるだろう。