アニサキスによる食中毒増加、長時間輸送・海洋環境変化が影響か…「生サバ」の食文化ある福岡が最多に
魚介類に寄生するアニサキスによる食中毒が増加傾向にある。博多の郷土料理「ゴマサバ」など、サバを生で食べる食文化が根付く福岡県では昨年、全国の食中毒発生件数の1割を占めた。冷蔵で長時間輸送が可能になったことや海洋環境の変化による影響も考えられ、自治体や専門家は注意を呼びかけている。(手嶋由梨) 【写真】これを見たら注意…アニサキスの幼虫
アニサキス由来の食中毒が厚生労働省の統計に加わったのは2013年。この年の88件から増加傾向が続き、昨年は432件となった。原因別では最多で、全体(1021件)の4割を占めた。
福岡県も同様で、昨年は51件の報告があり、都道府県別で北海道、東京に続き3番目に多かった。原因施設は飲食店や販売店が35件、家庭が5件だった。
原因食品で多いのがサバだ。福岡県では、特定できたもので「ゴマサバ」が昨年は11件、「サバの刺し身」は7件。アニサキスは酢では死なないため、全国的には「シメサバ」も多かった。アジやイワシ、サンマ、カツオの刺し身も目立った。
厚労省によると、アニサキスには70度以上か60度で1分間の加熱調理が有効で、24時間以上の冷凍でも死ぬが、冷蔵では生存するという。県生活衛生課の担当者は「輸送技術の向上で長時間冷蔵で運べるようになった分、アニサキスが死なずに食中毒が起きやすくなっている可能性もある」と注視する。
生息海域で異なる種類
魚介類に寄生するアニサキスは幼虫で、クジラやイルカなど哺乳類の体内で成虫になる。卵が便と一緒に海中に排出され、オキアミ、魚介類と食物連鎖の中で成長するが、海域によって種類が異なる。
国立感染症研究所の杉山広・客員研究員によると、太平洋側は「シンプレックス(S型)」、日本海側は「ペグレフィー(P型)」が多いとされている。S型は魚の身に入り込む性質をもつ。一方、P型は内臓の表面にとどまりやすく、内臓を取り除けば食中毒になるリスクが低いため、日本海側でサバを刺し身で食べる文化が定着した一因とも考えられている。