アニサキスによる食中毒増加、長時間輸送・海洋環境変化が影響か…「生サバ」の食文化ある福岡が最多に
杉山さんらのグループはここ数年、太平洋と日本海、東シナ海に面する全国数か所の漁港で水揚げされたマサバの寄生状況を調査した。九州に近い日本海のマサバでも、身の部分からアニサキスが検出され、多くがS型だった。
杉山さんは「海水温や海流の変化によって寄生状況が短期間で変動することはあるだろう。日本海だから安全というわけではない」と指摘する。
胃や腸の壁を刺され激痛、アレルギー症状も
アニサキスが寄生した魚を食べても無症状の人は多いが、胃や腸の壁を刺されて激痛に見舞われることがあるほか、じんましんなどのアレルギー症状も報告されている。大分大の小林隆志教授(寄生虫学)によると、アニサキスそのものが過剰な免疫反応を誘発するとみられる。
小林教授は「加熱して死滅させても抗原性が残り、アレルギーが出る可能性はゼロではない」と指摘。▽刺し身は鮮度に気をつけ、調理の際は目視で確認する▽まな板や包丁は使う度に洗い流す――といった注意点を挙げ、「行政も、原因魚種や漁獲水域、流通経路などの調査や情報提供を行っていく必要がある」としている。
冷凍せず死滅させる殺虫装置の開発進む
水産業界でアニサキスは長年の悩みの種だ。冷凍やブラックライトを使った除去が一般的だが、味が落ちないように冷凍せずに死滅させる殺虫装置の開発も進む。
天然物のアジやサバを1日計約13トン出荷する福岡市の水産加工会社「ジャパンシーフーズ」は2017年に芸能人のアニサキス感染が相次ぎ、売り上げが約2割減少した。危機感を強め、熊本大の研究者と連携し、装置の研究に乗り出した。
3年前に巨大電力「パルスパワー」を使った方法にたどり着いた。塩水につけた魚に、蓄積した1億ワットの電力を1秒間に2・4発の頻度で約200秒間あてる。電力放出は一瞬で身の温度は上がらず、アニサキスを死滅できるという。
まだ試作段階だが、工場の加工ライン向けのコンベヤー式装置や、飲食店用の小型機の実用化を目指している。井上陽一社長は「よりおいしく安全な食品を届けられるよう努力を続けたい」としている。
◆アニサキス=寄生虫の一種。魚介類に寄生する幼虫は体長2~3センチほどの白っぽい糸くず状で、人間の体内では成長せずに数日で死滅する。