脚本を“個”ではなく“チーム”で作る意義とは? NHK脚本開発プロジェクトWDRの手応えを聞く
チームで脚本を作ることの最大のメリットとは?
――海外ドラマを分析した結果、発見はありましたか? 例えば、海外ドラマの良さと日本ドラマの良さの違いから感じたことなどがあればお話ください。 中山:優劣は決められない気がします。今回このプロジェクトを保坂が立ち上げた理由の1つとして、海外ドラマの良さは予算が潤沢にあるだけではなく、脚本の作り方にも一因があるのではないかと考え、研究して取り入れ、面白いものを作りたいと始めました。実際、そのノウハウはとても興味深いものでした。 上田:競技や種目が違うようなものかと思います。 ――上田さんは、いわゆるドラマ畑で、演出もプロデュースもやっていらっしゃいます。いままでご自身がやってきたドラマとは今回できたものは違いますか? 上田:これまでは一人の脚本家さんが書かれたものや、一人の作家さんが書かれた作品を原作として映像化させて頂くことが多かったです。その場合は作っていてやはり、一人の作家さんの世界観、心の中に縦に深く潜っていくような感覚があります。個人的で切実な打ち明け話を共有してもらっているような、親密な感じといいますか。ドラマの読後感もそれに近くなるのではないかと思います。例えば、プロットの緻密さや展開の速さを楽しむというよりは、主人公の心情にしっかり寄り添って見ていくというような。 一方、今回は、4人の作家の誰かひとりの中を深く縦に掘っていくというよりは、複数の作家さんが横につながって世界が広がっていくようなイメージを持ちました。横に手をつないで共闘するというような。いずれにしても、題材によって作り方は変えていいと思いますし、作家さんによってもひとりが向いている方、共同作業が向いている方に分かれる気がします。海外ドラマの脚本もすべてがチームで書かれているわけではありませんし。 ――中山さんはバラエティー番組の仕事もされています。バラエティーでは複数の構成作家がいますが、共同脚本システムとそれとは違いますか? 中山:僕がかつて担当していた志村けんさんのコント番組では、志村さんは圧倒的なショーランナーで、少人数で決める特殊な環境でした。彼が良いものは良いし、ダメなものはダメ。はっきりしていました。また通常のバラエティー番組は、割とコーナーごとに担当を決めて分業する形も多いので、今回のプロジェクトのように、プロット作りの段階から書いたあとの直し、台詞の一言一句に至るまで、全員がコミットするという取り組みかたは、僕にとって初めての経験でした。コント番組は5・6分のショートが組み合わさって1時間くらいの番組になりますが、ドラマはひとつの題材で1時間近くの作品になります。それを全部チェックして精度を高めることは、作業としては同じようでも、考える世界の広さや深さが違うというか、とんでもなく大変な作業だと痛感しました。 ――チームで脚本を作ることの最大のメリットは何でしょうか? 上田:脚本の精度が高まることだと思います。チームメンバーやスタッフ間に信頼関係が築けていること、必要な時間がかけられることが前提となりますが、多様な発想や価値観が持ち込めますし、複数人の目を通すことで単純にプロットの穴も見つけやすくなります。 ――2年前の発表ではNHKがいち早く海外ドラマのような作り方に着手したという印象でしたが、その後、TBSや日テレでもライターズルームを打ち出した募集が始まりました。どう思いましたか。 中山:志が同じ人たちがいることがうれしかったです。BABEL LABELさんやアニプレックスさん、東宝さんも動き出していて、何か1つフラグシップというかヒット作が生まれると、今後の後押しになるのではないかと思います。 ――このプロジェクトは今後も続きますか? 中山:ありがたいことに、すでに第2弾を期待する声も届いていますし、保坂と今後について話すこともあります。ただWDRプロジェクトの第二期をスタートする予定も、次回作も、募集をかける予定もいまのところはありません。この2年間、試行錯誤しながらの日々で、想像以上に大変だったというのが正直なところです。手応えもありつつ、継続するためには予算やスタッフの人数など改善の余地があることも感じています。まずは『3000万』が評判を呼び、新しい可能性を示す存在になって欲しい。そうなることで初めて、次はどうする?といった議論が具体的になると思っています。
木俣冬