生成AIがコーチ&キャディー務める「バーディ・トーク」が8月発売 ルール上問題ないのかJGAに聞いてみた【小川朗 ゴルフ現場主義】
アドバイスとなる情報をAIから入手することは規則10.2の違反
ゴルフを始めてから日の浅いゴルファーにとっては、頼もしい味方になってくれそう。スロープレーの予防にも役立ちそうです。ただ、このAIデバイスを競技で使おうとする場合には、多くのハードルがありそうです。そこでルールの総本山である日本ゴルフ協会(JGA)にAIデバイスに対する考えを聞いてみました。こうした最新鋭機の登場を、JGAはどう考えているのでしょうか。以下がJGAの回答です。 「テクノロジーの進化がこれからのゴルフの発展に寄与する可能性は高いでしょう。しかしながら、どのようなテクノロジーが、私たちが現在プレーしているゴルフの伝統と慣習を守りながらその発展に寄与するのか、あるいはゴルフゲームが大きく変化し、このゲーム本来の挑戦性や楽しみを脅かすのかについては、規則を定めるR&A、USGA双方が注視しながら、規則の改訂作業をすることになります」 ゴルフの発展に寄与する存在か否か。これが世界的なゴルフ組織の関心事であることは間違いないようです。 最も気になるハードルは、ゴルフ規則10.2(※1)「アドバイスと他の援助」の項目です。 「現在の規則がAI技術とどのように関連するかは、具体的な事案についてケースバイケースで裁定する必要があるかもしれませんが、明確に言えることは、アドバイスとなる情報をAIから入手することは、規則10.2の違反となります。例えば、球のある状況を入力し、その状況に対してどのようにクラブを選択するのか、どのような方法でストロークするかをラウンド中にAIに聞くことはアドバイスの違反になると考えられます。一方で、レッスン書や既に発表されている情報から、いつでも入手可能な一般的なスイング理論をAIから入手することはアドバイスの違反とはなりません。『アドバイス』とは何かについては規則定義に基づいて裁定をされるでしょう」と答えてくれました。違反になるケースと、ならないケースがあるわけです。 そのうえで、今後の裁定については含みを持たせました。 「AIにより可能となることは日進月歩であり、ここで考えられる可能性について現行の規則に照らした裁定に言及することは簡単ではありません。テクノロジーの進化(AI技術を含む)に伴って、ゴルフで使用することを意図した様々なデバイスが企画・開発される場合、そうした新しいデバイス、技術の使用がゴルフ規則で認められるかどうかは規則を統括するR&A・USGAの判断となります」 また、進化するAIデバイスの開発過程で、必要な作業があることも指摘しました。 「これまでになかった技術、機能や特徴を組み込む製品を企画する場合には、その開発の早い段階でR&A用具審査(日本に拠点を置くメーカーの場合)を通じてゴルフ規則への適合性を確認しておくことを推奨いたします」 一方で競技に出ているトップアマにも、この「バーディ・トーク」に関する印象を聞いてみました。 「ゴルフをこれから覚えようとする人にとって、使いようによってはとてもいいものになると思います。でも例えば、最近だとグリーンの傾斜も細かく、肉眼で測れないもの(水準器など)は使っちゃダメってなったんですよ(※2)。やっぱり判断するとか、選択するとかっていうのもゴルフの技術で、そういうものがどんどん人任せになってしまうのはどうかと思う。基本それを含めてゴルフのスキルだから、ただボールを打つだけじゃ、やっぱりゴルフじゃなくなってしまうと思うんで。まあいろんな場面で手助けとして使うのはいいにしても、(バーディ・トークに)依存しすぎちゃうと、ゴルフをやってるって感じじゃなくなっちゃうんじゃないかなっていう感じはしますよね」(マグレガーゴルフジャパン・松下健課長) 自然を相手に五感を駆使してプレーしているトップアマならではの発言と言えます。ただ松下さんも、これからゴルフを始めるゴルファーにとって有効なデバイスであることは感じているようです。 製造元のソースネクストの関係者はこう話します。 「弊社としては競技で使ってほしいといった意図はないので、100切りを目指すアマチュアゴルファーの手助けであること、ラウンドをしながら打ち方を学ぶことで、成長し、さらにゴルフが楽しくなる、という方向でお使いいただければと考えています」 同社の小嶋社長も次のように語っています。 「将来的には各競技団体ともご相談しながら、競技モードと練習モードの切り替えなどの機能改良を重ねていきたいと思います」 すでに6月20日16時よりMakuakeで先行発売(数量限定で特別価格)がスタートしました。「バーディ・トーク」とゴルファーが、コース上でどんなシーンを重ねていくのでしょうか。そこはまさに未知の世界。生成AIはこれからのゴルフ界を、どのように変えていくのでしょうか。 取材・文/小川朗 日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。 ※1 規則10.2 アドバイスと他の援助 規則の目的: プレーヤーにとっての基本的な挑戦は自分のプレーのための戦略・戦術の決定である。したがって、プレーヤーがラウンド中に受けることができるアドバイスや援助には制限がある。 規則10.2a アドバイス ラウンド中、プレーヤーは次のことをしてはならない。 ・競技に参加していてコースでプレーしている人にアドバイスを与えること。 ・プレーヤーのキャディー以外の人にアドバイスを求めること。 ・もし他のプレーヤーに与えたり、求めたりするとアドバイスとなる情報を知ろうとしてその他のプレーヤーの用具に触れること(例えば、どのクラブを使用しているのかを知るために他のプレーヤーのクラブやバッグに触れる)。 このことはラウンドの前、規則5.7aに基づくプレーの中断中、競技の複数のラウンド間には適用しない。 規則10.2aの違反の罰:一般の罰。(後略/編注:一般の罰=2罰打) ※2=JGA公式ウエブサイト 「グリーンリーディング資料の使用を制限する(ローカルルールひな型 G-11): ローカルルールひな型の文言と追加のガイダンス」より
小川 朗(日本ゴルフジャーナリスト協会会長)