『ダンジョン飯』九井諒子先生とゲームの話だけするインタビュー。「『ウィザードリィ6』をプレイして“こんな物語や絵を描いてみたい”と思いました」
全14巻で大団円を迎えたマンガ『ダンジョン飯』。その作者である九井諒子先生は、じつはかなりのゲームファンであることが判明! 週刊ファミ通の特集にかこつけて、ただただゲームのお話をする取材をお願いしたところ、なんと快諾をいただきました。しかし、そのゲーマーっぷりは我々取材班の想像を超えるもので……。納得のタイトルが並ぶ貴重なインタビューをお届けします。 【記事の画像(11枚)を見る】 ※本インタビューは2023年12月に実施したもので、週刊ファミ通2024年2月29日号 No.1837に掲載したものと同内容になります。 アニメ『ダンジョン飯』1月4日、5日に一挙放送! 第2期の制作も決定しているアニメ『ダンジョン飯』が、2025年1月4日(土)、5日(日)にニコニコで一挙放送! アニメ版を観たことがない人も、すでに観た人も、冬休みのお供にいかがですか? スケジュール ダンジョン飯 1~13話一挙放送 2025年1月4日(土)19時00分~24時50分 ダンジョン飯 14~24話一挙放送 2025年1月5日(日)19時00分~24時00分 九井諒子(くい りょうこ): 同人作家としてpixivやコミティアなどで活動し、2011年3月に『竜の学校は山の上 九井諒子作品集』でデビュー。2012年に『九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子』を刊行、2013年の『ひきだしにテラリウム』で第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。2014年より『ハルタ』(KADOKAWA)誌にて『ダンジョン飯』の連載を開始(2023年9月に連載終了)。単行本が全14巻で発売中。 ゲームの原体験にあるのは父がプレイしていた『ウィザードリィ』 ――今回は『ダンジョン飯』のお話と言うよりも、九井先生がかなりのゲーム好きだと伺ったので、ゲームに関するお話をお聞きしたく。: 九井:偏りはありますが……よろしくお願いします。 ――『ダンジョン飯』を最初に読んだとき、人間とエルフ、ドワーフに、いわゆるホビットを想起させる人物たちがパーティーを組んで、ダンジョンの奥深くまで冒険するという構成が、王道のファンタジーRPGを思わせるものになっていると感じたんです。 九井:そうですね。父がファミコンで『ウィザードリィ』(※1)をはじめとしたさまざまなゲームを遊んでいて、それが最大の娯楽だったので、私の原体験的なものになっているかもしれません。子どものときは難しくて、自分では遊べなかったのですが。大人になってから「あのゲームの雰囲気はよかったな」、「あんな雰囲気のものをなんか描きたいな」と思ったことがきっかけになっている気はします。 ※1:『ウィザードリィ』……1981年にサーテックよりApple II向けに発売されたRPG。主観視点で描かれる3Dダンジョンを、異なる種族や職業を持つキャラクターでパーティーを組んで冒険する。その後に続くRPGに大きな影響を与えた。ファミコン移植版は1987年にアスキーより発売。 ――お父さんがプレイしているところを横で見ていたのですか? 九井:見ていることが多かったです。いろいろなゲームのうちのひとつでしたが、『ドラゴンクエスト』や『ウルティマ』、『ファイアーエムブレム』などの、見ていて楽しいゲームとは少し違っていて。一人称視点でずっと同じ風景が続く 『ウィザードリィ』は、子ども心に「なんだか地味なゲームだな」と思っていました。でも、攻略本に載っているモンスターのイラストがとても楽しくて、延々と眺めていた記憶もあります。 ――攻略本にはゲームでは見られないイラストが載っていたりしましたから。 九井:少し成長したら自分でもRPGなどを遊ぶようにはなりましたが、受験やひとり暮らしなどのタイミングもあって、ゲームからはしばらく離れていました。 ――そういう方も多いですよね。 九井:再びゲームを遊ぶようになったのは、 『ダンジョン飯』の連載が決定したことがきっかけです。『ウィザードリィ』自体がさまざまなものの影響を受けた作品だったと知り、ちゃんとその潮流などを知ったうえで描くべきだと思って、コンピューターゲームやTRPG(テーブルトークRPG)などをチェックするうちに、いろいろな作品に触れることになりました。 ――『ダンジョン飯』のためにゲームを研究しようという思いがあったのですね。 九井: 『はてしない物語』(※2)や『指輪物語』(※3)のような小説も好きで、ファンタジーにはなじみがありました。でも、なぜ似たような用語があちこちのゲームに出てくるのかは考えたことがなかったので、「そういえば、なぜなんだろう?」と思いまして。 ※2:『はてしない物語』……ドイツの作家、ミヒャエル・エンデによるファンタジー小説。現実の世界と本の中で描かれる世界が交錯していく物語が人気を博し、世界を代表する作品となった。映画『ネバーエンディング・ストーリー』の原作でもある。日本語翻訳版は岩波書店より刊行。 ※3:『指輪物語』……イギリスの作家、J.R.R.トールキンによるファンタジー小説。“中つ国”を舞台にした“指輪戦争”が描かれる。数多の作品に影響を与えており、本作を原作にした映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズは大ヒットを記録。日本語翻訳版は評論社より刊行。 ――そこから世界が広がっていったと。『ダンジョン飯』というタイトルは、英題が『Delicious in Dungeon』ということもあり、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D ※4)を意識していると、勝手に思っていました。 九井:英語名は担当編集さんがつけてくれたもので、確かに 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を意識していたそうです。じつはテーブルトークRPGというものの存在自体も、大人になって初めて知った程度でした。ゲームの歴史を調べていると必ず『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の名前にたどり着くので、ルールブックやリプレイ小説を読んだり、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をベースにしたコンピューターRPGを遊んでみたりもしました。実際に遊ぶ相手がいなかったので、ちゃんと遊んできた人と比べると、実感がともなっていない感はあります。 ※4:『ダンジョンズ&ドラゴンズ』……1974年にアメリカで誕生したテーブルトークRPG。世界で最初のRPGであり、現在もシリーズ作が世界中でプレイされている。略称は“D&D”。 ――さきほどプレイステーションなどはちょっと触っていたとおっしゃっていましたが、印象に残っているゲームはありますか? 九井:『ファイナルファンタジーVII』でしょうか。 『ファイナルファンタジー』シリーズはグラフィックがすごくて、新作が出るたびに「ここが進化の上限なのではないか」と驚いていた記憶があります。 ゲームにはムダに思えるものでもそれがあるだけでうれしくなる ――『ダンジョン飯』の連載が始まった2014年ごろから、いろいろなゲームをプレイするようになったとのことですが、今回の取材に際して、事前に担当編集さんから九井先生が好きなゲームを教えていただきまして。それらのリストを見ると、けっこうバラエティーに富んでいて驚きました。マンガの研究のためにプレイを始めたとおっしゃっていましたが、研究のために遊んだ最初のゲームは覚えていますか?: 九井:研究というか勉強のために買ったのですが、最初は 『Legend of Grimrock』(レジェンド・オブ・グリムロック)ですね。“食事を取るRPG”と言えば『ダンジョンマスター』(※5)が有名だったので、実際にプレイしたいと思ったのですが、実機で遊ぶにはハードルが高くて。 そこで、『ダンジョンマスター』の影響が色濃いという『レジェンド・オブ・グリムロック』をプレイしました。連載がなければ、おそらく触らなかったタイプのゲームでしたが、ボリュームも難易度もちょうどよく、自分の中でも“遊びきった”という感覚が心地よくて、いい思い出になりました。現代のグラフィックで遊べる一人称視点のダンジョンの雰囲気なども参考になりました。これをきっかけに、いろいろなゲームで遊ぶようになった気がします。 ※5:『ダンジョンマスター』……1987年にFTL Gamesが開発した3DダンジョンRPG。移動や戦闘などの行動を取るたびに時間が経過するリアルタイム型で、食料や水を摂取する必要がある。日本語版はスーパーファミコンで1991年に発売された。 ――『レジェンド・オブ・グリムロック』は、ひさびさにゲームを遊ぶ人にはけっこうハードなタイトルだったと思いますが……。 九井:基本ルールがそこまで複雑ではなかったので。ただ、最初はアクションゲームだということを理解していなかったため、棒立ちで殴り合ったらふつうに負けたりして……。敵の攻撃をタイミングよくかわして、スキを突いてアタックすることを理解したら楽しくなりました。日本語化はされていないのですが、文字も少ないので英語版で遊びました。 ――ここからいろいろなゲームを遊ぶようになったと。 九井:ターンベースのRPG以外のゲームに苦手意識があったのですが、「食わず嫌いはやめて、おもしろそうなゲームはとりあえず触ってみよう」と決めました。『レッド・デッド・リデンプション2』や『ゴッド・オブ・ウォー』なども遊んでみたら「ストーリーがおもしろい」となって、どんどんハマっていった感じです。 ――連載を続けながらゲームも遊んで……。 九井: 『レッド・デッド・リデンプション2』はものすごく作り込まれたゲームでした。誰かとゲームの話をしたくて、担当編集さんやほかのマンガ家さんにも買ってもらいました。こんなゲームが存在することに感謝を述べたいくらいです。 ――好みにかなりドンピシャだったのですね。 九井:正直に言うと、初めは「……」という感じでした。キャンプの中を走れなかったり、物を拾うときや獲物をさばくときのモーションがいちいち入ったりするところに、少しイライラしたりもして。こだわりで遊びやすさを犠牲にするのは、作り手の押しつけではないか? と思ったり。 それでも、プレイするうちにスケジュールに合わせてNPCが行動を変えたり、ご飯をきちんと完食したり、主人公がどんどん汚れていったり……。膨大なディテールが積み重なっていった結果、異様な迫力につながって。加えてストーリーもいいし、音楽もすばらしい。予算も人員も本当に贅沢なことが伝わって、ゲームに対する志の高さに、最終的には恐れおののきながら遊んでいました。ゲームとマンガではものづくりに違いがあるので真似をするのは難しいですが、創作に対する姿勢を考えるきっかけにもなりました。 ――ボリュームたっぷりの大作は、ほかにも遊ばれているのですか? 九井:最近だと、『Starfield』もおもしろかったですね。情報を入れないで遊んだので、最初は操作方法もよくわからなかったのですが、遊んでいくうちに、非常になじみのあるベセスダ・ソフトワークスらしい手触りに夢中になりました。ベセスダのゲームはいつも懐が広くて愛嬌があります。 ――いわゆる全年齢対象の作品というか、ファミリーで楽しめるゲームはあまりプレイされないのですか? 九井:気になったものは遊びますよ。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ティアーズ オブ ザ キングダム』などもプレイしました 。『ブレス オブ ザ ワイルド』発売当時はなかなかNintendo Switchが買えない状況だったので、『ダンジョン飯』の担当編集さんにも「ぜひ遊んで」と、Nintendo Switch本体とソフトを貸して遊んでもらいました。 ――大作で言うと、『サイバーパンク2077』も好きなゲームに挙げられています。 九井:ティザートレーラーが発表された2013年ごろから気になっていました。その後、2015年に発売された『ウィッチャー3』が本当によくて、「開発したCD PROJEKT REDはすごいなあ、ここが作るなら間違いはないだろうな」と思いました。 『ウィッチャー3』のローカライズが本当に丁寧ですばらしくて、「これは翻訳者の腕というよりも、開発会社が積極的に協力しないとできないローカライズだ」と感動したんです。『サイバーパンク2077』もやっぱりすごくよかったですね。DLCもおもしろかったし、ずっと好きな作品になりました。 九井先生おすすめゲーム1:Legend of Grimrock 『Legend of Grimrock』 PC/Almost Human Games/2012年4月12日発売 グリムロック山に投げ込まれた4人のパーティーで3Dダンジョンに挑むRPG。アクション性の高い戦闘はもちろん、無数の罠や仕掛けが満載のダンジョンも人気の理由。リアルタイムで進行するため、移動や食事などの休憩中も何が起こるかわからない緊張感が楽しめる。 視点が見下ろし型のゲームはその世界に入り込みやすくなる ――『ディスコ エリジウム』も“超”がつくくらいおもしろかったそうですね。: 九井:視点が見下ろし型でテキスト主体のゲームがいちばん好きなんです。戦闘にはあまり興味がないのですが。『ディスコ エリジウム』はそもそも戦闘がなくて、ストーリーも気になるし、キャラクターの掛け合いがチャーミングで。いままで遊んだことのないタイプのゲームでしたし、加えて見下ろし型のテキスト主体で……すべてが好みと合致していて、私にとってはとてもおもしろいゲームでした。 ずっと前から海外では話題になっていたけれど、テキスト量も多いし、日本語化は絶望的だと思っていたので、海外版にチャレンジして。でも、「なかなかきびしいな」と思っていたら、スパイク・チュンソフトさんがローカライズしてくれた。本当にうれしかったです。 ――見下ろし型の視点でファンタジーRPGといえば『バルダーズ・ゲート』シリーズもありますが、最新作の『3』もスパイク・チュンソフトからローカライズ版が発売されました。 九井:『バルダーズ・ゲート』は『1』と『2』も連載のために遊んだゲームのひとつでした。同じく遊んだ『ディヴィニティ』(※6) シリーズのLarian Studios(ラリアンスタジオ)がライセンスを取得して、最新作を作っていると聞いたときは驚きました。PC向けのアーリーアクセス版で第一章が配信されてすぐ遊んだのですが、やっぱり英語だと話に集中できなくて。でも、日本語版が出ると聞いて「スパチュンさん、いつもありがとう!」と。こういったゲームがたくさん売れて、ほかの作品の日本語化にもつながるとうれしいですね。『Pathfinder:wrath of the righteous』とか……。 ※6:『ディヴィニティ』シリーズ……タクティカルバトルが特徴のファンタジーRPGシリーズで、2002年に1作目『ディヴァイン ディヴィニティ』が発売。2014年に発売された『ディヴィニティ:オリジナル・シン』が大ヒット。現時点での最新作は2019年発売の『ディヴィニティ:オリジナル・シン2』で、日本語版の『ディヴィニティ:オリジナル・シン 2 ディフィニティブエディション』がスパイク・チュンソフトより発売中。 ――そもそも見下ろし視点が好きな理由は? 九井:地の文があるゲームが多いからです。キャラクターのセリフだけではなく、風景やモノローグの描写が入るところなどがすごく好きなんです。地の文があるとグラフィックが多少粗くても、風や匂いを感じたり、ほかのキャラクターの些細な言動などを補完できます。洞窟の暗くてじめっとしている感じとか、キャラクターのちょっとした言動、心理描写があって世界に入り込みやすい。 ――視点が広いぶん、想像が膨らむのかも。 九井:そういうゲームは選択肢も多いです。自分が選んだ選択に合った反応が返ってくることで、その世界に関わっているとより思える。仲間に嫌われて、出て行かれちゃうとか(笑)。この相互作用は、マンガや映画にはできないゲームのすばらしさだと思います。 ――かなり幅広いジャンルのゲームを楽しまれていますが、情報はどこでチェックされているのですか? 九井:ゲームメディアや公式サイトなどで。誰かが「おもしろい」と言っているゲームや、日本語化されているものをチェックしたり。「あのゲームの発売日はどうなったかな」と知りたいときはSNSなどもチェックします。 ――『Unpacking』(アンパッキング)や『House Flipper』(ハウスフリッパー)もおもしろかったそうですが、荷物を整頓したりキレイにしたりするゲームがお好きなのですか? 九井:掃除するゲームは好きですね。最近だと『アンパッキング』は荷物を整理するだけで想像をかき立てられるところが、すごくよかった。整理しているうちに、部屋の持ち主の性格を推測できるようになっていたり……。細かいところまでこだわって作られていて。発売前は物を整頓するゲームと聞いて興味を持ったのですが、遊んでみたら効果音もとてもよくて、想像以上におもしろかったです。 部屋を間違わなければ、置き場所の正解・不正解みたいなものはあまりないので、自分にとって最強のレイアウトを組んで、配置し終えると最後にアニメーションでプレイを再生できるので、それを観ながらお茶を飲んで「やっぱりこの部屋はすばらしいな」と思ったりして(笑)。予定はないとのことですが、続編が遊びたいです。 ――『ハウスフリッパー』でも、自分で作った部屋を見てお茶を飲んだり? 九井:『ハウスフリッパー』はとにかく掃除が楽しくて、部屋に必要な注文家具などは適当に置いちゃったりもしています。汚れをどんどんキレイにすると気持ちが落ち着きます。『2』も遊んでいますが、やっぱり楽しいですね。 九井先生おすすめゲーム2:ディスコ エリジウム 『ディスコ エリジウム』 Switch、PS5、PS4、XSX|S、Xbox One、PC/ZA/UM/2019年10月16日発売 記憶を失くした主人公が24ものスキル(人格)を駆使して殺人事件を調査する。膨大なテキストと選択で物語が変わる画期的なナラティブで高評価を獲得。多数の新要素を追加した『ザ ファイナル カット』版があり、ZA/UMよりPC、XSX|S、Xbox One向けに、スパイク・チュンソフトよりNintendo Switch、PS5、PS4向けに発売中。 九井先生おすすめゲーム3:アンパッキング 『アンパッキング』 Switch、PS5、PS4、XSX|S、Xbox One、PC、iOS、Android/Humble Games/2021年11月2日発売 引っ越し先の新居で箱から荷物を取り出して部屋に置いていく、パズルと飾り付けの要素が楽しめる作品。居住空間をのんびりと自由に構成しながら、荷物を通じて持ち主の人生を垣間見ることができるという独特のゲーム性が人気となり、数々の賞を受賞している。 探検している感じが楽しめた『ウィザードリィ6』の表現 ――少しテイストは変わりますが、『Returnof the Obra Dinn』(リターン オブ ザ オブラ・ディン)も好きなゲームに挙げられています。: 九井:開発者の方(ルーカス・ポープ氏)が作った『Papers, Please』(ペーパーズ、プリーズ)(※7)が、初めて「これがインディーゲームか」と認識して遊んだタイトルです。これが思い出深くて、新作をすごく楽しみにしていたのですが、やっぱり『オブラ・ディン』もおもしろかったですね。音楽もいいし、雰囲気もあって、謎解きもちょうどよかった。 ※7:『Papers, Please』…… 1980年代の架空の共産主義国家を舞台に、国境検問所の入国審査官として種類の審査を行うアドベンチャー。2013年に発売され、数々の賞を受賞。日本語版はPC(Steam)版やiOS版がプレイできる。 ――点描みたいなグラフィックが、サーっとアニメーションで流れる演出には驚きました。 九井:2014年にデモ版が配信されて、「どういうゲームになるんだろう」と思っていたんですけど、完成されたものは本当におもしろかったです。 ――インタラクティブ性が強いアドベンチャーの『Immortality』(イモータリティ)をピックアップされているのも、そのあたりが理由ですか? 同じ開発者のサム・バーロウ氏が手掛けた、映像で描かれる物語がプレイヤーの選択で変化していく『Her Story』(ハー ストーリー)も楽しまれたそうですが。 九井:2作ともおもしろかったですね。どこへ連れて行かれるのか、まるで予想がつかず、不思議な手触りの作品で。実写の動画を見ていくという構造上、現実とゲームの境目がどんどん曖昧になっていく不思議な感触がありました。映像の中の人物にこちらを見つめられた瞬間はゾクッとしましたね。強烈な体験でした。 ――プレイヤーが介入することで物語が変化する作品がお好きなんですね。 九井:自分が取った選択にゲームから反応が返ってくると、単純にうれしいですよね。 ――『ダンジョン飯』の連載開始からゲームを研究してきて、ご自身の物語に影響を与えたゲームと言えば何になりますか? 九井:影響となると、最近のゲームではありませんが『ウィザードリィ6』(※8)でしょうか。“コズミック・フォージ”というペンがあって、そのペンで書いた言葉がすべて現実になる。昔、そのペンを王様と悪い魔法使いが奪い合って、古い城が滅んでしまう。そしていま、この城に新たな冒険者たちが潜入する……というお話なのですが、もうこの文章だけでワクワクしました。ファミコンと比べてスーパーファミコンになったのでグラフィックも進化していて、埃が積もっていたりとか、壊れた家具があったりとか、そういった描写がしっかり表現されていて、探検している感じが楽しめたんです。「こんなお話や絵を描けたら」と思いました。 ※8:『ウィザードリィ6』……1990年に発売。国内ではスーパーファミコン版が『ウィザードリィVI 禁断の魔筆』のタイトルで発売された。英語版がSteamで配信中。 九井先生おすすめゲーム4:リターン オブ ザ オブラ・ディン 『リターン オブ ザ オブラ・ディン』 Switch、PS4、Xbox One、PC/3909/2018年10月19日発売 19世紀初頭、無人で帰港した商船“オブラ・ディン号”に乗り込み、乗客乗員の安否と死因を調査するアドベンチャー。プレイヤーは懐中時計で残留思念をたどり、その人物が死にいたる直前の場面を確認して事件を解明していく。白と黒の2色で表現されるグラフィックが特徴。 ゲームでは省略されている部分を描きたいと思って始めたのが『ダンジョン飯』 ――『ダンジョン飯』のアニメが放送されましたが、九井先生もお好きな『サイバーパンク2077』をベースにした『サイバーパンク エッジランナーズ』を制作したTRIGGERがアニメを手掛けています。: 九井: 『エッジランナーズ』については、好きなゲームがアニメになると聞いて「私が好きなナイトシティじゃなかったらどうしよう」と思って観るのが怖かったです。でも勇気を出して観たら、ちゃんと『サイバーパンク2077』らしさもTRIGGERらしさもあってよかったですね。 ――アニメ『ダンジョン飯』の完成版は観られたのですか? 九井:まだきちんと観てはいないのですが(※取材は2023年12月に実施)、アフレコは拝見しました。すごくよかったのですが、自分が書いたセリフを声優さんたちが情感を乗せて演じられているのが恥ずかしくて……。マルシル役の千本木彩花さんの絶叫もすばらしかったのですが、なんか恥ずかしくなって逃げ出したくなりました。自分の作品でなければ手放しで喜んでいたのですが。制作に関しては、少しだけ「こんな風にしてほしい」とお願いもしましたが、おおむねTRIGGERさんにお任せしています。 ――アニメの音楽を光田さん(光田康典氏。作曲家として数々のゲーム音楽を担当)が手掛けられているというのもゲームファンとしては興味深いポイントです。 九井:『クロノ・クロス』は親にソフトを買ってもらって遊びました。オープニングの曲とグラフィックがすばらしくて何度も見返していたので、光田さんが音楽を担当されると聞いて感慨深かったです。 ――原作は全14巻で大団円を迎えて、ラクガキ本の『デイドリーム・アワー』も出版されました。少し落ち着いたら、しばらくはゲームもじっくりプレイできそうですね。2024年の注目作はありますか? 九井:『Cloudpunk(クラウドパンク)』がよかったので、2024年に出るかどうかはわかりませんが『Nivalis(ニヴァリス)』を楽しみにしています。あとは『Avowed』も楽しみです。 ――ゲームユーザーとしては、「『ダンジョン飯』のゲームがあったらいいな」と妄想してしまいますね。 九井:ゲームの中だと食事ってバフやデバフ効果のために取るもので、だいたい面倒くさい作業になりがちで。ゲームにするとなるとそのへんをおもしろくする必要があると思いますが、そもそもゲームでは省略されている部分を描きたいと思って始めたマンガなので、開発するほうはたいへんそうです。 ――ゴリゴリの『ウィザードリィ』みたいなゲームになったらどうします? 九井:ライオスの主観視点になるのかな。食事しないと死んでしまうとか。それ、楽しそうですね(笑)。 九井諒子完全描き下ろし! 海外RPGのエルフたち 九井先生オススメのゲーム、まだまだあります! インタビューにもある通り、今回の取材に際して用意してもらった九井先生の好きなゲームのリストは、かなり膨大でした。上記イラストに描かれている『The Elder Scrolls』、『Dragon Age 』、『Pillars of Eternity 』や『Pathfinder』シリーズは除いて、取材時間の都合で細かい話を聞けなかったタイトルを、ほんの一部ですが抜粋します! 気になるタイトルがあったら、ぜひ各自で調査を。 ・2064: Read Only Memories ・ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム ・サバクのネズミ団!改。 ・キングダムカム・デリバランス ・Gorogoa ・デトロイト:ビカム ヒューマン ・Crossing Souls ・My Time at Portia(きみのまち ポルティア) ・Tyranny ・Sorcery! Parts 1 and 2 ・Marvel's Spider-Man ・Vampyr(ヴァンパイア) ・ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島 ・ファイアーエムブレム 風花雪月 ・アウターワールド ・十三機兵防衛圏 ・The Awesome Adventures of Captain Spirit ・Space Haven ・Planescape: Torment: Enhanced Edition ・Songs of Syx ・Encased: A Sci-Fi Post-Apocalyptic RPG ・Inscryption ・トライアングルストラテジー ・ツーポイントキャンパス ・Superliminal ・Expeditions: Rome ・Stacklands ・パラノマサイト FILE 23 本所七不思議 ・Coffee TalkEpisode 2: Hibiscus & Butterfly ・The cosmic wheel sisterhood ・Scene Investigators ・Chicken Police (順不同) The cosmic wheel sisterhood 『ダンジョン飯』ワールドをとことん楽しもう! 『ダンジョン飯』: コミックス全14巻/発行:KADOKAWA(ハルタコミックス) 2014年から『ハルタ』にて連載が始まり、シリーズ累計で1000万部を超える単行本は2023年12月に同時発売された第13巻と第14巻にて完結! 紙と電子書籍で絶賛発売中。 『九井諒子ラクガキ本 デイドリーム・アワー』 発売日:2024年1月15日/定価:1980円[税込]/発行:KADOKAWA 『ダンジョン飯』執筆中に描いたマンガやイラスト、スケッチを収録。『ハルタ』誌のおまけ小冊子、初出しイラストも掲載した228ページのフルカラー本。 『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル 完全版』 発売日:2024年2月15日/定価:2090円[税込]/発行:KADOKAWA 2021年発売の『ダンジョン飯ワールドガイド 冒険者バイブル』に描き下ろしマンガや秘蔵設定資料を追加。サイズも大きくなった、豪華キャラクタ―ブック。