特殊詐欺の被害者、グループに取り込まれ犯罪加担「金を返してほしい気持ちが強く」…受け子や口座開設
特殊詐欺事件などで被害に遭った人が、そのまま詐欺グループに取り込まれて犯罪に加担するケースが福岡県で複数確認されている。160万円の被害を取り戻そうと、詐欺の「受け子」などを担った末に逮捕された福岡市のトラック運転手の男性(60歳代)が取材に応じ、当時の心境や悔悟の念を語った。県警は動揺や弱みにつけ込んだ手口が広がる可能性があるとみて、警戒を強めている。(丸山滉一、岡林嵩介) 【図表】詐欺グループに取り込まれた流れ
「金を返してほしい気持ちが強くなっていった。途中でおかしいなとは思っていた」。詐欺未遂容疑で10月に現行犯逮捕された後、現在は釈放されている男性は今月上旬、取材にこう語り、うなだれた。
8月、男性のスマートフォンにNTTを名乗る男から電話があり、「サイトの未納料金がある。請求分を支払ってほしい」と言われた。身に覚えはなかったがパニックになり、「何かの拍子にサイトに登録したのかも」と信じてしまった。
指示通りに30万円を用意すると、今度は「保証協会」を名乗る男2人から「あなたの携帯電話がウイルスにかかり、他の人が被害を受けた」として、弁護士費用130万円を請求された。計160万円を消費者金融で工面し、指定口座に振り込むなどした。
その後は要求内容が変わった。「被害に遭った人に補償金を払う口座が必要」と、新たに契約したスマホでネット銀行7行の口座開設を指示された。「犯罪では」と疑ったが、「指示通りにすれば金を返す」と言われて従うと、10万円が返金された。一部口座の取引は停止され、犯罪に使われていると確信したが、「金を取り戻したい感情をコントロールできなかった」。
指示は9月も続いた。「あなた宛ての荷物を運送会社の営業所に取りに行って」。荷物の中には現金250万円があり、指示通り口座に振り込んだり、電子マネーに替えてカード番号を伝えたりした。10月8日、同様の指示で営業所に向かうと警察官が待ち構えていた。450万円を受け取る予定だった。手錠を掛けられながら、ほっとしていた。「もう言うことを聞かなくていいんだ」