特殊詐欺の被害者、グループに取り込まれ犯罪加担「金を返してほしい気持ちが強く」…受け子や口座開設
被害者の立場からグループの手足となっていった男性。「独身で、1人で何とかしようとしたのが大間違いだった。なぜ誰かに相談できなかったのか」と悔やむ。合計700万円は、福岡県太宰府市の70歳代女性が特殊詐欺でだまされて発送した金だった。「(犯罪に加担して)申し訳ない。少しずつでも弁済していきたい」と話した。
福岡県久留米市で起きたSNS型ロマンス詐欺事件でも、被害者だった男が犯人側に取り込まれた。
県警によると、男は東京都の会社員(56)。約3年前、出会い系アプリで「米国の女性軍人」と知り合い、翻訳アプリを使いながらLINEでやり取りを始めた。
軍の在籍証明書や戦場の写真を見て信用し、「ハズバンド(夫)」と呼ばれて恋愛感情を抱いたという。「軍から休暇許可を得るのに費用がかかる。ギフトカードを購入してほしい」と言われて6万円分を購入、番号を教えた。
昨年になると不可解な依頼が続いた。「友人があなたに金を送る。ギフトカードを買って番号を私に伝えて」。男の口座に金が振り込まれ、カードを買って番号を連絡する行為を繰り返した。詐欺の被害金を電子マネーに替えて「資金洗浄」する行為だった。
カードは250枚、金額は1000万円以上に及んだ。犯罪に加担していると気づいていたが、「夫と呼ばれて嫌な気はしなかった。日本に来たら金をあげると言われ、期待した」という。男は今年10月に逮捕され、ロマンス詐欺の被害金約30万円を引き出したとする窃盗罪で起訴された。
犯人側は「だましやすい人」引っかけ身代わりに仕立てる
福岡県警によると、同様の事例は特殊詐欺などの増加に伴って今後増えるおそれがある。警察庁によると、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺は前年より増加し、今年1~9月の特殊詐欺は1万4254件(前年同期比235件増)、SNS型投資・ロマンス詐欺は7662件(同5232件増)となっている。
桐生正幸・東洋大教授(犯罪心理学)は「犯人側は電話などでだましやすい人を引っかけ、自ら手を汚さないための身代わりを巧妙に仕立てている。闇バイトの応募者が深みにはまる構図にも似ている」と指摘。「社会的に孤立した人がパニックになり、自分本位の思考に陥ってしまう。相談できるコミュニティーの形成が重要だ」と話す。
県警幹部は「だまされたとしても犯罪は許されない。犯人側に弱みを握られた場合は、パトロールの強化など保護に全力を尽くす。道を踏み外す前に、警察に相談する勇気を持ってほしい」と呼びかけている。