トランプ次期政権は対中国シフトを模索 欧州、中東、アジア…「3つの圏域」分散を回避 「トランプ2.0」の衝撃②
代表格はエルブリッジ・コルビー元国防次官補代理だ。トランプ前政権の国防戦略起草に関わった対中強硬派の論客である。コルビー氏は7月、シンクタンクの行事で「誰が次の大統領に選ばれても、中国が台湾を攻撃する事態に備えなければならない。われわれには十分な時間が残されていない」と警告した。
米国が欧州や中東の紛争に「くぎ付け」となれば、米戦略資源は消耗され、空白が生じる。中国はその隙を突いて台湾侵攻に動く可能性があるとし、米国はアジアに集中すべきだとコルビー氏は訴えた。
7日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルによれば、ペンス前副大統領の補佐官だったキース・ケロッグ氏とトランプ前大統領の副補佐官だったフレッド・フライツ氏は今年に入り、「ウクライナがロシアとの停戦交渉に応じるまで兵器供与を保留する」ことをトランプ氏に提案した。
■中露朝イランは連携…大きなリスク
政権移行チームは台湾シフトへの本格的な準備に入った可能性があるが、それには大きなリスクも伴う。
プーチン氏に果実を与える形でのウクライナ停戦は国際秩序を大きく傷つけ、別の侵略を誘発しかねない。中露朝とイランはすでに連携を深めているため、中国の侵攻に便乗して北朝鮮が朝鮮半島で軍事行動を起こしたり、ロシアが中朝の側面支援に動いたりする「同時紛争」の危険もある。
プーチン氏がウクライナにとどまらず、東欧やバルト三国に兵を進めるとの懸念も根強い。
第二次大戦はナチス・ドイツのポーランド侵攻(1939年)で始まったが、発端は38年、英仏がチェコスロバキアの一部割譲をドイツに認めたミュンヘン会議とされる。チェンバレン英首相の「宥和(ゆうわ)的態度」で歴史に汚名を残した会議を、ルーズベルト米大統領は議会の孤立主義の空気に配慮して傍観した。
現実主義外交の大家とされる国際政治学者、モーゲンソーは「合理的な対外政策だけが危険を最小限に、そして利益を最大限にする」と説いた。利益最優先の取引を得意とするトランプ氏。自ら警告する「第三次大戦突入」を回避する「合理的判断」が問われる。(ワシントン 渡辺浩生)