シリーズ『ストーリーズ』田んぼと共に生きる小さな集落 輪島市高根尾。地域で協力し守って来た田んぼを襲った2度の災害
秋の実りを奪う 無情の雨
大雨の後、高根尾地区を取材した。 震災の爪痕が残りながらも、農業を通して再生していこうとしていた高根尾地区の田んぼは、大雨による農業用水の氾濫で、流木や土砂が流れ込み台無しになってしまっている。 地区の田んぼの半分は稲刈り前。せっかく豊かに実ってくれたお米も、収穫できなくなってしまった。 中橋さん: こんな状況になっているというのは私も今初めて見るんですけど、近づかないようにしていた。ここに水路があるんですけど、泥で埋まってしまっている。土砂が入り水路が埋まり、堤防がこういう状態で… 川は増水したままで未だ茶色い水が流れている。堤防が濁流で崩れ危険な状況が続いていたため、中橋さんも田んぼのことが気がかりでありつつも近づけなかったようだ。 稲作の仲間仕事を通して深くつながりあっていた、高根尾の人間だからこそ。長年力を合わせて守り続けた田んぼが、今回の豪雨で受けた被害の大きさは、すぐには受け止めきれない。 あの日、地元の子供たちと収穫したお米はどうなってしまったのだろう… 中橋さんに聞いたところ、幸いにも子どもたちと稲を刈ったお米は、中橋さんの家の納屋にあった。2、3日前に脱穀ともみすりを終えて保管してあったため、被害を免れたそうだ。
大雨を乗り越えた新米を子供たちへ
9月30日。 豪雨から9日後。中橋さんたちは無事だったお米でおにぎりを作り、子どもたちに届けることにした。高根尾地区の女性たちが新米を大きな炊飯器で炊き、真心を込めておにぎりを握り、それを中橋さんは小学校へ届ける。 「いただきます」 「うまっ!!」 「米の質が違うと言うか…モチモチ?いつもよりモチモチ」 「自分で収穫したって思うと余計に」「最高」 自分たちで田植えをして、収穫したお米を食べ喜ぶ子供たち。 笑顔で自分たちが育てた米をもりもり食べる子供たちを見て、豪雨の影響で沈みがちだった中橋さんにも、笑顔が戻った。 中橋さん: まだ食べる?4個目やぞ?すごい、新記録かもしれんよ 特別なおにぎりを前に、子どもたちの食欲も倍増。予定の倍に近い数を作ったが、全てなくなった。 新米を食べる会は楽しかった、と中橋さんは語る。 中橋さん: その場の時間、1時間・2時間・3時間の間は現実から離れ、現実を忘れられる時間だから。なんとか災害のことを忘れようとしてみんな努力するけど、現実に戻るとこれは大変やな…と。 日を追うごとに見えてくる豪雨の爪痕… 高根尾をつないできた田んぼを、これからも守っていきたいという思いは変わらないが、その術が見つからない。 中橋さん: 田んぼを見る度、回る度に、この地域がどうなるのか、この田んぼがどうなるのかが気がかりでならない。これからの希望は見えない。 農業で深くつながりあってきた高根尾地区を襲った、自然災害。その被害は、高齢化が進み集落営農で力を合わせて田んぼを守ってきた地域にとって、あまりにも大きすぎた。 奥能登の地域社会や営みが再び立ち直るためには、さらなる支援が必要とされている。 (石川テレビ)
石川テレビ