「音」が微生物を元気にする?土壌再生の最新研究
気候変動や人間の活動によって在来の植生が失われると、土壌微生物が完全に回復するまでに数十年かかる場合がある。しかし、土壌微生物の活動を促進できれば、その植生の回復プロセスが加速する可能性があるという。音により微生物の働きを活性化し、植物をより早く成長させ、より多くの二酸化炭素を貯蔵することで、地球温暖化の抑制への貢献も期待できる。 本研究は、気候変動や土壌劣化といった地球規模課題の解決に向けた音の活用可能性を広げるものだ。しかし裏を返せば、私たちの出す音が生態系に与える悪影響も無視できないということができ、サウンドスケープの重要性を示唆している。 いわゆる騒音は、私たち人間にとっても、難聴、ストレス、高血圧などの悪影響を与えるが、人間が出す騒音による野生動物への悪影響が問題視されている。野生動物は移動、食料探し、仲間の呼び寄せ、捕食者からの回避など、さまざまな理由で音を使用しているが、騒音がこれらの妨害となり、生存能力に影響を及ぼすというのだ。 例えば、サイエンス誌に掲載された 2021年の研究では、過去50年間で、海運により主要な輸送ルートにおける低周波騒音が約32倍に増加していることが示され、船舶の騒音がクジラの打ち上げにも関係していると指摘されている(※3)。 音を活用した土壌生態系回復の試みは現時点では研究段階ではあるが、実用化が進めば土壌劣化や地球温暖化などの解決に向けた救世主になるかもしれない。化学肥料の9割を輸入に依存し、食料自給率の低い日本でも、音を活用することで、輸入に頼らずにリジェネラティブな農業へ移行していく助けになる可能性もある。音を活用する際には、それが周囲へ与える影響を多角的に評価し、人と自然が共生できる形で、現場に応用していくことが求められるだろう。 ※1 Why do soil microbes matter?(UK Centre for Ecology & Hydrology) https://www.ceh.ac.uk/why-do-soil-microbes-matter#:~:text=These%20organisms%20have%20many%20tasks,as%20methane%20and%20nitrous%20oxides ※2 Soil Degradation(UNDRR) https://www.undrr.org/understanding-disaster-risk/terminology/hips/en0005 ※3 Are humans drowning out the sounds of the seas?(UNEP) https://www.unep.org/news-and-stories/story/are-humans-drowning-out-sounds-seas