世界文化賞のピアニスト、ピレシュ「コンクールはイマジネーションを殺します」と警鐘
第35回高松宮殿下記念世界文化賞音楽部門を受賞したポルトガルのピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュ(80)が同賞授賞式のために来日した。受賞者懇談会でピレシュは「若手アーティストの演奏はまるでロボットのようです。これはコンクールのための演奏です。作曲家に対するリスペクトがありません。譜面が読めていないのです。楽譜を表面的に読んでいるだけです」と現在の音楽界の風潮に警鐘を鳴らした。 【写真】個別懇談会に臨むマリア・ジョアン・ピレシュ ■日本でも人気高く ピレシュはキャリア初期からたびたび来日、日本でも人気の高いピアニスト。長くピリスと表記されてきたが、近年、ピレシュに改められた。1944年、ポルトガル・リスボン生まれ。3歳からピアノをはじめ、リスボン音楽院でカンポス・コエーリョらに師事。西ドイツに留学し、70年、ベートーベン生誕200周年記念コンクールで優勝した。74年、日本コロムビアにモーツァルトのピアノソナタを録音する。日本ではこのレコードで〝モーツァルト弾き〟として知られるようになった。 「私は20代の無名のアーティストでした。その頃は伴奏者としての芸術活動に満足していたのです。あるとき、2人の日本人がポルトガルを訪ねてきました。『あなたでモーツァルトのソナタ全集を録音したい』と。少々準備の時間をもらい、2カ月間日本に滞在しました。これが私の独立したピアニストとしてのキャリアの始まりでした。そして日本とモーツァルトとの初めての接触でした」と振り返る。 そしてフランスのエラート、後にドイツ・グラモフォンという世界的なレーベルと契約し、国際的な活動を繰り広げる。今年12月にはオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とモーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノム」を共演する。ピレシュはモーツァルトとともにショパンの演奏にも定評があった。体が小さいから手も小さい。ショパンは自分の体になじむ作曲家だった。 「当たり前ですが、私は大きい手は知りません。小さい手しか持っていないのです。音楽をやりたい気持ちがあったから自分の小さい手で何とかしたのです。レパートリーが小さい手に合ったものになったのは確かです。レパートリーは身体能力と密接に関係しており、心ともつながっています。この体が私の音を作ってくれたのです。小さいころから体内で音を感じて弾いていました。音を作ることはクリエイティブなことです。これは演奏以上に大事なことです」 ■子供たちのために