「店と従業員守ろうと」十数年で100万円 みかじめ料の恐怖と後悔
政令市の福岡、北九州両市の間に位置する古賀市などのベッドタウンで長年、暴力団が飲食店などから「みかじめ料」を吸い上げていた実態が、県警の捜査で明らかになった。十数年で100万円近くを支払った女性は「店や従業員の女の子を守ることで精いっぱいだった」と振り返る。 女性が経営する古賀市の飲食店に、その男性が訪れたのは十数年前のこと。男性が全国有数の指定暴力団の傘下組員だと聞いていた女性は、男性の言う「付き合っちゃらんね」が、みかじめ料を支払うことだと察した。 当時、県内の他地域では暴力団の意に沿わない飲食店の従業員が切りつけられたり、建設会社が発砲されたりする事件が相次いでいた。恐怖にかられた女性は、定期的に店を訪れる男性らに封筒入りの現金を渡した。相手が暴力団と知りながら資金提供することは県条例で禁止されているため、一度支払った後は負い目を感じて「誰に相談していいかも分からなかった」と振り返る。 女性の認識が変わったのは2024年2月、県警が飲食店から金を集めたなどとして、傘下組織の組長(76)や幹部(49)を銀行法違反(無許可営業)容疑で逮捕。捜査関係者によると、家宅捜索した関係先からは古賀や福津、宗像各市の30以上の事業者からみかじめ料を集めていたことをうかがわせるメモや、みかじめ料を運転代行名目と偽装する領収証が見つかった。 「警察がうちにも来た」「おれは警察に話したよ」。周辺の店主の話から、女性はみかじめ料を支払っていたのが自分だけではなかったことを初めて知った。「暴力団を絶対に潰しますから」。刑事の力強い言葉を信じ、女性も県警の聴取に応じた。県警は捜査の結果、女性らは恐怖心から支払わざるを得ない状況だったと結論づけた。福岡地検は銀行法違反容疑などを不起訴処分とする一方、暴力団対策法違反の罪で組長らを略式起訴し、罰金命令を受けた組長や幹部は「もうやらない」と誓ったという。 中洲などの繁華街がある都市部と異なり、ベッドタウンでこの規模のみかじめ料が明らかになるのは珍しいという。捜査関係者は「今回の地域は都市部以上に住民同士のつながりが強く、かえって声をあげづらい空気があったのかもしれない」とみる。 一連の捜査が終結した9月、県警は地元の業者向け講習で、組員が集めたみかじめ料などは組織に上納され、武器の購入などに使われる恐れがあると説明した。県内では過去、暴力団同士の抗争事件で組員と間違われ、一般市民が殺害される事件も起きている。 「私たちのお金で誰かが傷ついたかもしれないと思うと、すごく後悔している」。女性はこう語る。12月には、市商工会が配布した「みかじめ拒否!」と書かれた木札を店のカウンターに置いた。「もし今後暴力団が店に来ても、木札を見せて『うちは警察が関与してるけん』と言います」ときっぱり語った。 ◇みかじめ料 「みかじめ料」は、暴力団が縄張り内で営業する飲食店などに対し、その営業を容認する見返りに要求する金品のこと。暴力団対策法で暴力的要求行為として禁止されている。 県警は2010年から、みかじめ料の被害相談などを電話で受け付ける窓口を設置した。相談件数は、北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」に対する頂上作戦に着手した14年(120件)をピークに減っており、23年は9件だった。 一方、相談ができないまま潜在化している被害者は今もいると県警はみている。暴力通報ダイヤル(092・622・0704)。