SXSWを生んだ街が「奇妙」であり続ける3つの理由【オースティン音楽旅行記Vol.1】
テキサス州の州都、オースティンの魅力を音楽ファン目線で掘り下げた観光レポート連載(全4回)。第1回は現地在住のエキスパートから歴史を学ぶ。SXSWでもよく知られる同市が特別な街となった理由とは? 観光名所にもなっているウィリー・ネルソンとジャニス・ジョプリンの壁画にそのヒントがあった。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」
「大らかな街」とギター、カウボーイ、ハイテクの共存
連載【シカゴ音楽旅行記】にまとめた数日間の滞在を終え、オヘア国際空港から次の目的地、オースティンに向かう。約3時間のフライトを経てバーグストロム国際空港に到着し、ターミナルに足を踏み入れると、音楽の街ならではの光景がさっそく目に飛び込んできた。 手荷物受取所の回転式ベルトコンベアに囲まれてそびえるのは、10フィート(約3メートル)の高さを誇るGibson製ギター。大きく描かれたジャニス・ジョプリンにしばし見入ってしまう。この巨大アートインスタレーション「Eight Guitars」は、カラフルな音楽文化を象徴し、旅行者を迎えるランドマークとなっている。 さらに、バーグストロム空港では「Live Music in the Air」というプログラムも用意されており、ゲート近くやレストラン内など8つのステージで地元ミュージシャンの演奏を楽しむことができる。年間の公演数はなんと1400本以上。2023年にはフィービー・ブリジャーズらによるスーパーグループ、ボーイジーニアスがサプライズ登場し、運良く居合わせた乗客たちを歓喜させた。 空港までヴェニュー化しているオースティンは、何百軒ものライブハウスが立ち並ぶことから「世界のライブミュージックの首都(Live Music Capital of the World)」を自負し、その称号をセールスポイントの筆頭に据えてきた。生演奏は同市のアイデンティティを形成し、クリエイティブなエコシステムを育み、観光資源として街の発展を促している。 その代表例が、毎年3月に開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。1987年、音楽産業のネットワークを構築するために700人規模で始まったインディーフェスは、いまや音楽・映画・テックを三本柱に、約380億円もの経済効果をもたらす世界最大のカンファレンスイベントへと成長した。会期中は市内各地でショーケースライブが行なわれ、日本からも毎年多くのアーティストや業界人が参加しているのは周知のとおり。 実際に来てみて思ったのは、オースティンがだいぶ独特のバランス感覚を持った街であるということ。 カントリー、カウボーイ、バーベキューといったテキサスらしい南部の伝統を受け継ぐ一方、ハイテク産業が経済の中心を担い、多くのIT企業やスタートアップが集まる「シリコン・ヒルズ」としての顔も持つ。ホテルの窓からはコロラド川の景観が広がり、外に出てみると建設中の高層ビルがちらほら。素朴と洗練のはざまにあるユニークな風情を保っている。 たまらないのは風通しのよさ。ホテルのチェックインを済ませ、最初の目的地に到着するまでの短い時間で、この街の大らかさに魅了された。行く先々のあらゆる空間にゆとりがあり、出会う人々からもテイク・イット・イージーな寛容さを感じる。 Uberでの移動中もそうで、ドライバーがみんな気さくに話しかけてくれた。最初にマッチしたエチオピア出身の女性は韓国映画にハマっているそうだが、筆者が日本人だと知ると「あいみょんってどういう意味?」と尋ねてくる。「片言の英語でごめんね」と告げると、「私が付き合ってるフランス人の彼氏より全然上手だよ。この街を楽しんで」とやさしい笑みを浮かべた。なんて素敵な人だろう! 「大らかな街」とギター、カウボーイ、ハイテクの共存